君の声が聞きたくて

誠奈

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第18章  espresso

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 とは言え、巫山戯てばかりはいられない。


 なんたって潤一さんを待たせてるから……


 俺は森岡先生の向かい側の椅子に腰を下ろすと、微かに感じる緊張に、少しだけ顔と気持ちを引き締めた。

 特別痛いことをされるわけでもないし、怖いことだって何も無い。でもこの瞬間だけは、どうしても身構えてしまう。

 当然、森岡先生からは、硬くなるなって何度も言われるんだけど、こればっかりはどうにも出来なくて、結局口を尖らせる羽目になるんだ。

「さてと、そろそろ始めようか?」

 俺の前に紙とペンが差し出される。
 診察室自体はとても静かな空間になっているから、俺の囁き声でも届かなくはないけど、声を出そうと一生懸命になり過ぎると、どうしても呼吸困難みたくなってしまって……
 それに、俺は元々口下手な方だから、口で言うよりも文字にした方が、相手には伝わりやすかったりする。

 俺は目の前に出されたペンを手に取ると、真っ白な紙に『お願いします』とだけ書いた。
 すると、それまでのおちゃらけた(……は、失礼か)表情から一転、森岡先生が真剣な顔に変わった。そして、手元に置いたタブレットを操作しながら、薄らと髭の生えた顎を指の先で撫でた。

 「そうだな、これまで君の話を色々聞かせて貰ったけど、君の声が出なくなった原因は和人君だったかな、の死にあることは確かなようだね。ただ……」

 やっぱり……と言うよりは、和人の死が俺の声が出なくなったことに大きく関係していることは、俺自身も当然分かってはいたし、今更それを言われたところで特別驚いたりはしない。


 でも、「ただ」と言いかけた言葉の続きが気になって……


 『他にも原因が?』

 俺は紙の上にペンを走らせた。

 「そうだな、原因と言うわけではないんだが……」


 何だろう…


 何度か診療を受けているけど、こんなにもったいぶった素振りを見せる森岡先生は、もしかしたら初めてかもしれない。


 だからかな、急に不安になる。
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