153 / 337
第16章 divisi
2
しおりを挟む
「……き、病院、行こうね?」
朦朧とする意識の中、耳元で言われた言葉に、俺はゆっくり瞼を持ち上げる。熱…のせいかな、潤んだ視界の中に、ここにいる筈もない翔真さんの姿が映って……
……どうして?
一生懸命口を動かそうとするけど、俺の口から漏れるのは、熱を含んだ荒い吐息だけで、ならば手だけでもと思ってみるけど、それさえもままならなくて……
「熱高いみたいだから、一応病院行っとこうね?」
耳元で繰り返された同じ言葉に、俺は首だけを横に振って答える。
『いらな……い』
病院なんて行かなくていい、だから俺の傍にいて……
熱のせいなんかじゃなく不意に熱くなった目頭に、ギュッと瞼を瞑ると、いつもよりも数倍温度の高い雫が頬を伝った。
「本当に智樹は泣き虫だね?」
うん、俺本当は超が付くくらい泣き虫なんだ。
今頃気付いたの?
俺の涙を拭おうと頬に触れた手を、力なく伸ばした手で掴む。
冷たくて気持ち良いけど、……あれ?
違う、俺の知ってる翔真さんの手は、こんなにも冷たくないし、こんなに硬くもない、もっと熱くて柔らかで、その手に触れただけで触れられただけで、全てを包みこんでしまうような、そんな大きな手なのに……
俺は固く閉じていた瞼をゆっくり持ち上げ、手の甲で何度も乱暴に擦った。
すると、さっきまで俺の視界を曇らせていた霞が徐々に晴れ、目に映る風景がハッキリして来る。
『えっ?』
見開いた目に飛び込んで来たのは、相変わらず爽やかな雅也さんの、珍しく心配そうな顔だった。
『ど……して?』
乾いた唇を動かしてみるけど、雅也さんは翔真さんじゃないから、仮に簡単な言葉であっても唇の動きを読むことは出来ない。
だからかな、雅也さんが首を傾げた。
仕方のないことなんだって分かってるけど、どうしてももどかしさを感じてしまう。
翔真さんならきっとこんなもどかしさを感じたりはしないのに。
翔真さんなら……か。
忘れなきゃって思ってるのに、まだこんなにも翔真さんのことばかり考えてしまうなんて……
ダメだな、俺も。
朦朧とする意識の中、耳元で言われた言葉に、俺はゆっくり瞼を持ち上げる。熱…のせいかな、潤んだ視界の中に、ここにいる筈もない翔真さんの姿が映って……
……どうして?
一生懸命口を動かそうとするけど、俺の口から漏れるのは、熱を含んだ荒い吐息だけで、ならば手だけでもと思ってみるけど、それさえもままならなくて……
「熱高いみたいだから、一応病院行っとこうね?」
耳元で繰り返された同じ言葉に、俺は首だけを横に振って答える。
『いらな……い』
病院なんて行かなくていい、だから俺の傍にいて……
熱のせいなんかじゃなく不意に熱くなった目頭に、ギュッと瞼を瞑ると、いつもよりも数倍温度の高い雫が頬を伝った。
「本当に智樹は泣き虫だね?」
うん、俺本当は超が付くくらい泣き虫なんだ。
今頃気付いたの?
俺の涙を拭おうと頬に触れた手を、力なく伸ばした手で掴む。
冷たくて気持ち良いけど、……あれ?
違う、俺の知ってる翔真さんの手は、こんなにも冷たくないし、こんなに硬くもない、もっと熱くて柔らかで、その手に触れただけで触れられただけで、全てを包みこんでしまうような、そんな大きな手なのに……
俺は固く閉じていた瞼をゆっくり持ち上げ、手の甲で何度も乱暴に擦った。
すると、さっきまで俺の視界を曇らせていた霞が徐々に晴れ、目に映る風景がハッキリして来る。
『えっ?』
見開いた目に飛び込んで来たのは、相変わらず爽やかな雅也さんの、珍しく心配そうな顔だった。
『ど……して?』
乾いた唇を動かしてみるけど、雅也さんは翔真さんじゃないから、仮に簡単な言葉であっても唇の動きを読むことは出来ない。
だからかな、雅也さんが首を傾げた。
仕方のないことなんだって分かってるけど、どうしてももどかしさを感じてしまう。
翔真さんならきっとこんなもどかしさを感じたりはしないのに。
翔真さんなら……か。
忘れなきゃって思ってるのに、まだこんなにも翔真さんのことばかり考えてしまうなんて……
ダメだな、俺も。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ポケットのなかの空
三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】
大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。
取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。
十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。
目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……?
重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
・性描写のある回には「※」マークが付きます。
・水元視点の番外編もあり。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
※番外編はこちら
『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる