君の声が聞きたくて

誠奈

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第15章  diminish

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 どうやら松下は最初からそのつもりだったらしく、いつの間に用意したのか、自前のスウェットの上下に着替えている。一方俺はと言ったら……

 下がる一方の肩に背中を丸め、チビチビと缶を傾けている。だからかな、時間の進みがやたらと遅く感じてしまう。




 そうしてどれくらいの時間が経ったんだろう、テーブルの上に空になった缶が数本並んだところで、松下が両手をパンと打ち鳴らした。

 「さて、そろそろ聞かせて貰おうか? 智樹と何があったの?」

 出来ればこのまま忘れて欲しかったが、松下がビールを数本飲んだくらいじゃ酔っ払わない男だってことを、俺はすっかり忘れていた。

 俺は諦め交じりに溜息を一つ零すと、組んだ足を解き、手だけを伸ばしてゴミ箱を引き寄せた。そしてゴミ箱の中から、一枚だけ質感の違うクシャッと丸まった小さな紙を取り出し、手のひらで皺を伸ばしてからテーブルの上に置くと、松下が首を傾げた。

 「これは?」
 「エコー写真だよ」
 「それは分かるけど、どうしてこんなモンが?」
 「それは……」

 言葉に詰まり、下を向いてしまった俺に、ソファから降りた松下が視線を合わせるように覗き込んで来る。

 「ねぇ、まさかと思うけど、コレが原因で智樹との関係にヒビが入った……とか言わないよね?」

 さっきまでとは全く違う、低い声に追い詰められる。

 「答えて?」
 「し、仕方なかったんだ、昨日の朝突然来たかと思ったら、赤ん坊が出来たって、そんなモン見せられて……」


 本当に仕方なかったんだ……


 「じゃあ旅行は? 行ったんでしょ? だって智樹、超楽しみにしてたし…… 」
 「知ってるよ、知ってるけど、だけど……」

 智樹が俺との旅行を楽しみにしていたことは、俺だって当然知っていた。


 でもどうすることも出来なかったんだ……


 俺は松下の問いかけに首を横に振った。

 「行かなかった……ってこと?」


 違う、行かなかったんじゃなくて、行けなかったんだ……


 「行けるわけないだろ、出かけにそんなん見せられて、どうして楽しく旅行なんて出来るんだよ」


 無理だよ、そんなの……
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