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第15章 diminish
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どれくらいの時間そうしていたんだろう、絶え間なく鳴り続ける電話を取りに、俺は漸くその重い腰を上げた。
「……もしもし」
「やっと出た。いつからかけてると思ってるの?」
電話は、今俺が最も関わりたくない、なんなら声一つだって聞きたくない相手からだった。
「あ、ああ、済まない。ちょっと立て込んでたものだから……」
どうせ俺が何をしていようと、彼女にとっては関心のないことだろうから、適当な言い訳でその場をやり過ごすことにした。
「まあいいわ。ところで、今から会えないかしら?」
「今から?」
「そうよ?」
「それはちょっと……」
時間が無いわけじゃない、寧ろ時間なんて余る程ある。
もし用があるとしたら、借りただけになってしまった車を返却しに行くことくらいだ。
それでも彼女の誘いを断るのは、今彼女の顔を見てしまったら、確実に恨み言の一つでも言ってしまいそうだったからだ。
ただ、流石に身重の身体に負担をかけるわけにはいかない。俺のせめてもの優しさのつもりだった。
「分かったわ。それじゃ仕方ないわね」
良かった。
電話越しに彼女の吐き出す溜息を聞きながら、俺はホッと胸を撫で下ろした……のも束の間……
「でも忘れないでね、私のお腹には貴方の子供がいる、ってことを」
まるで悪魔の囁きにも似た言葉に、俺は再び断崖絶壁の崖から下に突き落とされた。
俺だって男だ、いつかは誰もが羨むような、暖かで笑いに満ちた家庭を築けたらと、ありふれているかもしれないが、そんな夢を思い描いたこともあった。
その時には、彼女が隣にいてくれたらとも……
出会った頃の彼女はとても無垢で、とても愛らしくて、誰もが憧れる素敵な女性だった。でも今は違う、彼女は俺の知ってる彼女とは全く別人のように変わってしまった。
それがいつの頃だったのか、何がきっかけだったのか、それすらも分からない。
ただ分かるのは、いつかはと望んだ子供の存在は、今や足枷となり、一生俺を縛り付けることになるだろうということ。
そして、そこに明るい未来など無い……ということだけだ。
「……もしもし」
「やっと出た。いつからかけてると思ってるの?」
電話は、今俺が最も関わりたくない、なんなら声一つだって聞きたくない相手からだった。
「あ、ああ、済まない。ちょっと立て込んでたものだから……」
どうせ俺が何をしていようと、彼女にとっては関心のないことだろうから、適当な言い訳でその場をやり過ごすことにした。
「まあいいわ。ところで、今から会えないかしら?」
「今から?」
「そうよ?」
「それはちょっと……」
時間が無いわけじゃない、寧ろ時間なんて余る程ある。
もし用があるとしたら、借りただけになってしまった車を返却しに行くことくらいだ。
それでも彼女の誘いを断るのは、今彼女の顔を見てしまったら、確実に恨み言の一つでも言ってしまいそうだったからだ。
ただ、流石に身重の身体に負担をかけるわけにはいかない。俺のせめてもの優しさのつもりだった。
「分かったわ。それじゃ仕方ないわね」
良かった。
電話越しに彼女の吐き出す溜息を聞きながら、俺はホッと胸を撫で下ろした……のも束の間……
「でも忘れないでね、私のお腹には貴方の子供がいる、ってことを」
まるで悪魔の囁きにも似た言葉に、俺は再び断崖絶壁の崖から下に突き落とされた。
俺だって男だ、いつかは誰もが羨むような、暖かで笑いに満ちた家庭を築けたらと、ありふれているかもしれないが、そんな夢を思い描いたこともあった。
その時には、彼女が隣にいてくれたらとも……
出会った頃の彼女はとても無垢で、とても愛らしくて、誰もが憧れる素敵な女性だった。でも今は違う、彼女は俺の知ってる彼女とは全く別人のように変わってしまった。
それがいつの頃だったのか、何がきっかけだったのか、それすらも分からない。
ただ分かるのは、いつかはと望んだ子供の存在は、今や足枷となり、一生俺を縛り付けることになるだろうということ。
そして、そこに明るい未来など無い……ということだけだ。
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