君の声が聞きたくて

第１４章 dolore

４

　「ちょっと待ってて、今コーヒー用意するから」

　言われて頷くけど、風呂に入ったからかな、気を抜いたら瞼が閉じてしまいそうに眠い。


　そっか、そう言えば俺、夜中までバイトして、急いでアパート帰って、それから大急ぎで仕度して……
　気付いた時には、一睡も出来ないまま朝が来てたんだ。

　少しでも寝ようと思ったけど、翔真さんとの旅行が楽しみで、結局ベッドに横になっただけで眠れなかったんだっけ。

　いっぱい話したいことあんのにな……
　どうして待ち合わせ場所に来なかったのか、とか。

　他にも、翔真さんに会ったら話そうと思ってたこと、沢山あんのに……


　俺は少しでも眠気を紛らわしたくて、ダイニングからリビングへと場所を移動した。


　そこで俺が目にした物。
　いくら根っからのゲイの俺でもそれが何を意味する物かは分かる。

　瞬間、眠気なんてモンは一気に吹き飛んだ。

　目の前が真っ暗になって、その小さな写真を持つ手がありえないくらいに震えた。



　だから、「智樹？」翔真さんに声をかけられても全然耳には入らなくて……

　「智樹、コーヒー飲んだら送って行くから」

　カップが二つ、コトリと音を立ててテーブルに置かれた時、漸く翔真さんがそこにいることに気付いた。

　俺の手元を見て、顔を青くして凍り付く翔真さんが……

　「どうして、それを……」

　声だって震えちゃってるし。

　俺はその瞬間思ったんだ、終わったって……。もう終わりにしなきゃいけないんだって、自分の中で覚悟を決めた。

　なのに翔真さんは、「これはなんて言うか、その……」なんてさ、しどろもどろになりながら俺の手から写真を取り上げ、一生懸命言い訳しようとするから、現実だと思いたくないのに、余計にこれが現実なんだって言われてるような気がして……

　『なんだ、そうだったんだね』

　自分に言い聞かせるように呟いた諦めの言葉は、やっぱり声になることはなくて、だから当然、翔真さんの耳に届くこともない。

　石のように固まったまま動けずにいる俺をソファに座らせ、翔真さんがフッと息を吐き出した。