君の声が聞きたくて

誠奈

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第13章  coda

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 『まだ迷ってる?』

 すぐにYesと言えない俺を、智樹の不安気な目が見つめる。


 俺が智樹を抱く……


 そのことに迷いなんてなかった。寧ろ、旅行中にそんな関係になれたら、なんて淡い期待だってしていた。
 だから所謂必需品の類いも揃えたし、今だって俺のボストンバッグの中で、出番が来るのを今か今かと待ち侘びている筈だ。

 ただ、どうしても不安だったんだ。今まで女性としか経験して来なかった俺が、果たして同性である智樹に反応するのか、が。

 俺が抱かれる分には、ただこの身を流れに任せておけば良いが、抱くとなったら話は別で、智樹を抱きたいと、そう思い始めた時から、俺は常にその不安を抱えて来た。
 今だってその不安は、当然ある。だからかな、とても困惑した表情を浮かべていたんだと思う。

 『もし、無理だと思ったら、途中で止めても良いから』
 『だから……』

 ポタリ……と、メモ帳の上に落ちる雫。

 「ごめん、違うんだ、そうじゃなくて、俺はただ君をこれ以上傷つけてしまうのが怖くて、だから……」

 俺はとうとう泣き顔に変わってしまった智樹の頬を両手で包むと、キツく噛み締めた唇を指でなぞった。そしてそっと唇を重ねると、智樹の手からペンを抜き取った。

 「おいで?」

 ペンを抜き取っても尚握ったままの手を包み、一本一本解きほぐすように指を絡めた。

 『翔真……さん?』

 涙で潤んだ目が俺を見上げる。

 「ごめんね、智樹。君をこんな風に泣かせたくはなかった」


 君にはいつも笑っていて欲しかった。
 そしていつか、あの時聞いたあの歌を、今度は俺だけのためだけに唄って欲しかった。


 でももうそれすら叶えられない。


 だったら……


 「ベッド、行こうか?」
 『……うん』

 小さく頷いた智樹の額にキスをして、俺は智樹を抱き上げた。キュッとシャツを握った手が、まるで俺の心臓まで握っているかのようで、胸の奥がズキンと痛んだ。
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