君の声が聞きたくて

誠奈

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第12章  sostenuto

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 「智樹? え、どうしてここに?」

 俺の顔を見た翔真さんは心底驚いた様子で、咄嗟に俺が翔真さんの額に手を当てると、今度は不思議そうに首を傾げた。

 『熱は?』
 「熱? いや、無いけど?」


 嘘だろ……、だって潤一さんからのメッセージには確かに熱があるって……


 俺は自分のスマホを取り出し、潤一さんからのメッセージを液晶画面上に表示させた。翔真さんはそれを見るなり、深いため息を一つ吐き出すと同時に、肩をガクッと落とした。

 「智樹、松下に騙されたんだよ」
 『えっ?』
 「俺、別に風邪もひいてないし、熱もないから」
 『は……?』

 頭の上に無数の?マークを浮かべる俺に、翔真さんは苦笑いを浮かべると、「ここじゃなんだから……」と、俺の手を引いた。

 翔真さんに手を引かれるまま、翔真さんの部屋へと入った俺は、全く使ってる様子のないキッチンカウンターに、コンビニ袋から大量に買い込んだ物を取り出し並べた。

 「ねぇ、それって、もしかして俺のために?」
 『うん……』


 だって熱で買い物にも行けないと思ったから……


 「ありがとう、智樹。でも俺、この通り元気だから」

 確かに、今俺の目の前にいる翔真さんは、どこをどう見ても元気そうには見えるけど、それでもまだ潤一さんからのメッセージが気になってしようがない俺は、再度翔真さんの額に手を当てた。

 「熱、ないでしょ?」
 『うん』

 手のひらに感じる、ジンとした熱さもなければ、寧ろ汗をかいているせいか冷たいくらいで……
 雅也さんに騙され、今度は潤一さんにまで騙され、二人に対して怒りを感じると同時に、単純過ぎる自分が情けなく思えて来る。
 多分凄くムスッとした顔をしていたんだろうな、翔真さんが俺の肩を抱き寄せた。

 「そんな顔しないで? 俺が具合悪かったのは事実だし」
 『そうなの?』
 「まあ、なんつーか、二日酔いでね。あ、でも今はスッカリ治まってるし、飯もちゃんと食えてるから、心配はいらないんだけど」


 だよね、そうじゃなかったらハンバーガーなんて、二日酔いの時に食べようとも思わないもん。


 『良かった、なんともなくて……』

 俺は翔真さんの背中に両腕を回した。
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