君の声が聞きたくて

誠奈

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第12章  sostenuto

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 道なんて良く覚えてないのに、僅かな記憶を頼りに、翔真さんのマンションを目指して自転車を漕ぐこと30分。


 やっと着いた……


 自転車を専用の駐輪場に停め、エントランスのオートロックを操作する。ここまでの道順はうろ覚えだったけど、部屋の番号だけはハッキリと覚えている。……とは言っても、インターホンに出たのが翔真さんじゃなかったらと思うと、数字を押す指が少しだけ震えた。


 205……、で合ってるよな?


 再度確認してから、漸くコールボタンを押す……けど、応答はない。



 おかしいな、出かけてるのか?

 あ、もしかして寝てる……とか?
 だとしたら起こすのも申し訳ないし……


 俺は辺りを見回すと、エントランスの脇にあった小窓を覗き込んだ。会えなくても良い、とりあえず買って来た物だけでも届けられたたら、との思いからだった。


 どうせこままま帰ったって、気になってしょうがないだけだし、少しでも顔が見れるなら、その方が俺的には嬉しいんだけど……


 小さな窓を軽く叩くと、居眠りでもしてなたんだろうか、それまで置き物のように微動だにしなかった背中がビクンと跳ね上がり、膝の上の漫画雑誌がバサッと床に落ちた。


 管理人ってわりに、全然役に立ってねぇじゃんか……


 「あー、はいはい、何のご用?」

 ズレた眼鏡を指で持ち上げながら、白髪混じりのおじさんが顔を出す。

 室内にも関わらず、くたびれたキャップにサングラス、ブルゾンまで着込んでるから、思わず笑いそうになるけど、俺が笑っていられたのはここまで。

 急いでアパートを飛び出したから、ペンとメモ帳を持って来るのを忘れたことに気付いた俺は、紙とペンを貸してくれるよう、ペンを走らせる動作をした。何度も何度も……。

 すると、最初こそ首を捻っていたおじさんが、閃いたとばかりに両手をパンと打ち鳴らした。

 「分かったよ、紙とペンでしょ?」


 やっと通じた……。


 ホッとする俺の前に、新聞広告で作ったメモ用紙が差し出され、俺はそこに、部屋番号と翔真さんの名前……、それから自分の名前を書いて、管理人のおじさんに向け、ズッシリと重いコンビニ袋を持ち上げた。
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