君の声が聞きたくて

誠奈

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第10章  trill

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 その間も桜木さんはずっと目を見開いたままで、きっとこの状況に驚くってよりも、戸惑っていてるんだろうなってことは、すぐに分かった。


 だってそれは俺だって同じだから……


 まさか俺が桜木さんを押し倒すなんて、そりゃちょっとは考えもしたけど、多分ないだろうって思ってた。


 だって俺、桜木さんになら抱かれても良いって……、寧ろ抱かれたいって思ってたから……


 だから慣れた筈の行為なのに、キスから先への進み方も分からなくなってしまって、息苦しかったんだろうね、桜木さんが眉間に皺を寄せたのを見て、俺は慌てて唇を離した。

 「あ、あの……さ、とりあえずシャワー浴びて来ても良い……かな?」

 唇が離れた途端に肩で浅い呼吸をしながら、俺の肩を押して身体を起こした桜木さんが、静かに離れて行く。
 そして酔っ払ってるわけでもないのに、覚束無い足取りで隣の部屋へ入ると、そのまま真っ直ぐバスルームへと向かった。


 終わった。


 先を急ぐつもりなんて、これっぽっちもなかった。
 俺自身のことはともかく、桜木さんの気持ちが固まるまでは、いつまでだって待つつもりだった。


 はあ……、なのに何やってんだろ、俺……


 桜木さんは、(勿論それが全てじゃないけど……)現実を目の当たりにしても俺のことを好きだと、俺とそういう関係にもなりたいって、そう言ってくれたのに……


 俺のこと、嫌いになったかな……?
 きっと怖がらせちゃったよな……?


 俺は背中を丸めて、ソファの上で膝を抱えた。





 どれくらいの間そうしていたんだろう……

「君もシャワー、浴びておいで?」

 言われて顔を上げると、腰にバスタオルを巻き付けただけの桜木さんが立っていて……
 想像していたよりも、うんと厚い胸板に、俺の心臓がドクンと高鳴った。

 「タオルは脱衣所にあるのを適当に使ってくれて良いから……」

 俺は小さく頷くと、なるべく桜木さんを見ないようにして、リビングを出た。


 だって、今桜木さんの顔を見てしまったら俺……、きっと自己嫌悪で泣きたくなる。
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