71 / 337
第9章 tempo rubato
10
しおりを挟む
せっかくのムードをぶち壊してくれた、忌々しい腹の虫を落ち着かせるため、俺達は駅前のコンビニで弁当と、我慢していたビールを買い込んだ。
その間も、大田君は俺の顔を見ては、吹き出しそうになるのを必死で堪えていて……
「もお、いつまで笑ってんの?」
俺が口を尖らせると、それを見てはまた笑って……
大田君の無邪気に笑う姿を見ていると、ついさっきまで感じていた胸のつかえがスっと抜けて行くような、そんな気がした。
コンビニを出た俺達は、迷うことなく、大田君のアパートの方に足を向けた……が、大田くんが突然足を止めてしまう。
「どうしたの? 疲れた?」
振り返り、顔を覗き込んだ俺に、大田君は小さく首を横に振って、人差し指を俺に向けた。
「俺? 俺がどうしたの?」
首を傾げる俺に、大田君は俺の腕を引き、全く逆の方向に足を向けた。
もしかして……、いや、違うと言って欲しいけど……
「俺の部屋……とか言ってる?」
若干顔を引き攣らせて聞き返すと、『うん!』、とばかりに大きく頷き、続けて『ダメ?』とばかりに上目遣いで俺を見上げる大田君。
そんな顔されたら、とても「嫌」とは言えなくて……
「分かった。分かったけどさ、片付けも何もしてないから、凄く散らかってるけど、ビックリしないでね?」
出来れば、ちゃんと片付けをして、綺麗に掃除もして、それから大田君を招待したかったんだけど、仕方ないよな……
俺達は駅前へと引き返すと、ロータリーにポツンと一台だけ停まっていたタクシーに乗り込んだ。
俺のマンションまで、タクシーを使っても15分程。俺達は運転手の目を盗むように、膝の上に置いたブリーフケースの下でこっそり手を繋ぎ、顔を見合わせて笑った。
深夜割増になった料金を支払い、タクシーを降りた俺達は、しっかりと手を繋いだままエレベーターに乗り込んだ。
コンビニで温めて貰った弁当は、すっかり冷めている。
「お弁当、温め直さないとね……」
俺が言うと、大田君は『気にしないよ』と唇を動かした。
ま……、この数分後には、大田君の顔から完全に笑顔が消えることになるんだけどね。
その間も、大田君は俺の顔を見ては、吹き出しそうになるのを必死で堪えていて……
「もお、いつまで笑ってんの?」
俺が口を尖らせると、それを見てはまた笑って……
大田君の無邪気に笑う姿を見ていると、ついさっきまで感じていた胸のつかえがスっと抜けて行くような、そんな気がした。
コンビニを出た俺達は、迷うことなく、大田君のアパートの方に足を向けた……が、大田くんが突然足を止めてしまう。
「どうしたの? 疲れた?」
振り返り、顔を覗き込んだ俺に、大田君は小さく首を横に振って、人差し指を俺に向けた。
「俺? 俺がどうしたの?」
首を傾げる俺に、大田君は俺の腕を引き、全く逆の方向に足を向けた。
もしかして……、いや、違うと言って欲しいけど……
「俺の部屋……とか言ってる?」
若干顔を引き攣らせて聞き返すと、『うん!』、とばかりに大きく頷き、続けて『ダメ?』とばかりに上目遣いで俺を見上げる大田君。
そんな顔されたら、とても「嫌」とは言えなくて……
「分かった。分かったけどさ、片付けも何もしてないから、凄く散らかってるけど、ビックリしないでね?」
出来れば、ちゃんと片付けをして、綺麗に掃除もして、それから大田君を招待したかったんだけど、仕方ないよな……
俺達は駅前へと引き返すと、ロータリーにポツンと一台だけ停まっていたタクシーに乗り込んだ。
俺のマンションまで、タクシーを使っても15分程。俺達は運転手の目を盗むように、膝の上に置いたブリーフケースの下でこっそり手を繋ぎ、顔を見合わせて笑った。
深夜割増になった料金を支払い、タクシーを降りた俺達は、しっかりと手を繋いだままエレベーターに乗り込んだ。
コンビニで温めて貰った弁当は、すっかり冷めている。
「お弁当、温め直さないとね……」
俺が言うと、大田君は『気にしないよ』と唇を動かした。
ま……、この数分後には、大田君の顔から完全に笑顔が消えることになるんだけどね。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ポケットのなかの空
三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】
大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。
取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。
十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。
目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……?
重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
・性描写のある回には「※」マークが付きます。
・水元視点の番外編もあり。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
※番外編はこちら
『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜
ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。
恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。
※猫と話せる店主等、特殊設定あり
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる