君の声が聞きたくて

誠奈

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第9章   tempo rubato

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 二人してパフェを楽しみ(俺に至っては胸焼け寸前だが)、カフェを出た俺達は、近くで行われる花火大会の会場に向かった……が、当然のことながら凄い混雑っぷりで……
 特に、花火が間近で見られる河川敷なんかは、座る場所を見つけることすら困難な状況だ。
 結局俺達は、メインと言われる場所から少し離れた場所に陣取ってはみたけど、そこだってすぐに人でごった返し出した。

 「俺、ビールでも買って来るよ。飲むでしょ?」

 雑踏に掻き消されてしまわないように、大田君の耳元に口を寄せて問いかける。
 でも大田君からは何の反応もなく……、ただ周りを落ち着かない様子でキョロキョロと見回しては、俺の腕をキュッと掴んだ。


 さっきからそうだ……


 混雑する人並みを見ては、不安そうに落ち着かない様子を見せる大田君。その唇が、「行かないで」って音もなく訴えている。

 俺は一度は上げかけた腰を下ろすと、大田君の手をそっと握った。

 「ビールは後にしようね?」

 俺としては、今すぐにでもキンと冷えたビールで喉を潤したいところだったが、終始不安そうな大田君を一人にしてはおけない。

 『ごめん……』

 そう語りかける唇に、俺は笑顔を向けることで答えた。

 そう……、今の俺にとっては、花火を見ながらビールを飲むことよりも、大田君とこうして肩を並べて、なんなら手を繋いで花火を見ることの方が、よっぽど幸せを感じ感じられるし、何より大切な時間だと感じられる。
 とは言え、この暑さだ、水分補給は必要だろうと、鞄の中に入れてあったペットボトルを取り出し、大田君に差し出した。

 「これで我慢ね?」

 俺が 言うと、大田君はクスリと笑って、ペットボトルを傾けた。


 ゴクリ……と喉を鳴らす度に上下する喉仏が、汗に濡れたせいかとてもセクシーで、不覚にも胸を高鳴らせていると、突然爆音のような、ドンッと腹に響く音がして、夜空に大輪の花が咲いた。

 次々と上がる歓声。

 俺はそれに紛れるようにして大田君の肩を抱き寄せると、ほんのりチョコレートの味が残る唇に、そっとキスをした。
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