君の声が聞きたくて

誠奈

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第7章   adagio

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 急に降り出した雨は激しさを増し、俺達のシャツは瞬く間にびしょ濡れになっていて、このままでは風邪を引いてしまう。

 「とりあえず中に入ろう?」

 中に恋人がいようがいまいが関係ない、このまま大田君を放っておけない。激しく咳き込んだせいか、俺の腕の中で肩を上下させながらぐったりする大田君を覗き込んだ。

 「部屋、どこ?」

 問いかけに、大田君の指が二階の角部屋を指差す。どうやら明かりはついていないようだ。

 「傘、借りるね?」

 アパートの住民専用の駐輪場から、階段まではほんの数メートル。距離にすれば大したことはないが、この雨だし、これ以上濡れてしまったら本当に風邪を引いてしまう。

 俺は大田君の手に握られていた傘を開くと、大田君の腰に腕を回した。
 ピッタリと身体を密着させながら階段を登り、大田君が指差した部屋の前まで進むと、何故だか急に緊張が走った。


 もし大田君の恋人が顔を出し、「お前は誰だ」と問われたら、俺は何て答えたら良いんだろう……


 馬鹿正直に「大田君に片思いしてます」って言うのは、あまりにも滑稽で間抜けだし、かと言って友人と呼べる程親密な関係ではまだない。


 ここはやっぱり知人と答えるべき……なんだろうな。事実そうだし……


 そんなどうでもいいこと(俺にとってはどうでも良くないことだけど)を一人考えあぐねていると、大田君がポケットから取り出した鍵の束をドアノブに差し込んだ。

 ゆっくりドアが開かれ、暗かった部屋に明かりが灯る。
 男所帯の割には綺麗に整頓された小さなキッチンと、その奥に見える六畳程だろうか和室だけの狭い部屋には見渡す限り人の気配はない。

 「出かけてるの……かな?」


 それとも、時間も時間だし、もう寝てるのか……


 どちらにせよ無事に部屋まで送り届けたことだし、俺の役目はここで終わりだ。

 「じゃあ、俺帰るから。身体、冷やさないようにね? 風邪を引くといけないから」

 先に部屋に入った大田君に玄関先から声をかけ、後ろ髪を引かれる思いでドアを閉めようとしたその時、

 「えっ、うわっ!」

 物凄い力で腕を引っ張られ…、勢い余った俺は、見事なまでの尻もちをついた。


 つか、大田君……可愛らしい見た目に反して力強くね?
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