君の声が聞きたくて

誠奈

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第7章   adagio

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 着替えを済ませた大田君の腰に腕を回し、並んで店を出る。


 あ……れ……? 確か相原さんは、外は雨が降ってるって言ってたのに……


 満点の星空を見上げながら、気を利かせてくれたんだと気付くけど、大田君はそうじゃなかったらしく……、プッと顔を膨らませ、店内へと引き返そうとするから、慌てて腕を掴んで引き止めた。

 「一杯食わされたみたいだね、俺達」

 もっと気の利いた台詞が言えたら良かった……、そう思ったのは、大田君が口の動きだけで「ごめんなさい」と言ったからだ。

 勿論、俺は謝って欲しいなんてこれぽっちも思っていない。

 「どうして謝るの? 俺は寧ろ、こうして君といられることに感謝したいけど?」

 そう言って右手を大田君に向かって差し出した。

 ただ残念なことに、大田君の手には自転車のハンドルがしっかりと握られていて……、俺は仕方なくその手を引っ込めた。自転車相手に勝負を挑む程、俺は狭量の狭い男じゃない。


 今はこうしていられるだけで……、一緒にいられるだけで、それだけで十分だ。それ以上を望んだら、逆にバチが当たる。


 「行こうか」

 背中をトンと叩くと、はにかんだように笑って頷く大田君。


 なんて可愛いんだろう……


 俺の目にかかったフィルターがそうさせているのかもしれないが、本当に可愛くて……、なのに俯いた横顔はとても綺麗に映るんだから不思議なんだよな。

 自転車を引く大田君に見とれていると、急に凄い力で引っ張られた俺は、「……っぶねぇ……」すぐ目の前に迫っていた電柱に、苦笑いを浮かべた。

 「ありがとう、危うくぷつかるところだったよ」

 俺の腕を掴んだまま、小さく首を横に振る大田君だけど、その顔はどこからどう見ても笑いを堪えてるようにしか見えない。


 格好良いとこ見せたかったのに、これじゃ台無しだ……


 俺は深い溜息と共に、元々下がり気味の肩を更に落とした。
 そんな俺に、大田君は自転車のスタンドを立て、ハンドルの変わりに手にしたスマホを差し出した。
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