25 / 337
第4章 strascinando
4
しおりを挟む
騙されたと知って帰ろうとした所を、奥の座敷まで強引に腕を引っ張られた。
雅也さんといいあの人……桜木さんといい、今日は何だかやたらと腕を引っ張られる日だ。
向かい合わせに座った雅也さんは、ナイスなタイミングでバイト君が運んで来た麦茶を一気に飲み干すと、俺に向かって爽やか過ぎる笑顔を向けた。
さっきからずっとそうだ、この人はどうして笑っていられるんだろう。
義理とはいえ、弟の和人が死んでから、まだ一ヶ月しか経ってないのに、どうして何も無かったかのように笑っていられるのか、俺にはそれが理解出来ない。
やっぱり、戸籍上は兄弟とはいえ、実際は血の繋がらない他人だから……、なんだろうか。
俺なんて、表面上は普通にしてるけど、心の中はグチャグチャだってのに……
「ねぇ、俺の話聞いてる?」
ぼんやりとテーブルに頬杖をつき、片手でペンをクルクル回す俺に、テーブルを指で叩いて訴える雅也さん。
聞こえてるよ。喋れなくなっただけで、耳はちゃんと聞こえてるし。
言い返したくてもそれも叶わないから、視線を合わせることなく頷きだけで答えた。あえて視線を合わせないのは、例えそれが偽りだったとしても、笑ってる顔を見たくなかったから。
「でね、俺考えたんだけどさ、色々大変じゃん? その……ほら、智樹今そんなだしさ、それに……」
何が言いたいんだろう……
俺はメモ帳を開くと、それまで指で弄んでいたペンを走らせた。
『何が? 俺が喋れないから?』
無言で差し出したメモ帳を見るなり、雅也さんが笑顔の上に困惑の色を重ねた。そして俺の分のお茶まで飲み干すと、今度は俺の手からペンを取り上げ、メモ帳に何かを書き始めた。
つか、何で雅也さんが筆談するわけ? 大体、耳はちゃんと聞こえてるっつーの!
「はい」と俺の手元に戻って来たメモ帳には、決して綺麗ではないけど、特徴的な文字がギッシリと並んでいて、俺は半ばうんざりしつつも、それに目を通した。
雅也さんといいあの人……桜木さんといい、今日は何だかやたらと腕を引っ張られる日だ。
向かい合わせに座った雅也さんは、ナイスなタイミングでバイト君が運んで来た麦茶を一気に飲み干すと、俺に向かって爽やか過ぎる笑顔を向けた。
さっきからずっとそうだ、この人はどうして笑っていられるんだろう。
義理とはいえ、弟の和人が死んでから、まだ一ヶ月しか経ってないのに、どうして何も無かったかのように笑っていられるのか、俺にはそれが理解出来ない。
やっぱり、戸籍上は兄弟とはいえ、実際は血の繋がらない他人だから……、なんだろうか。
俺なんて、表面上は普通にしてるけど、心の中はグチャグチャだってのに……
「ねぇ、俺の話聞いてる?」
ぼんやりとテーブルに頬杖をつき、片手でペンをクルクル回す俺に、テーブルを指で叩いて訴える雅也さん。
聞こえてるよ。喋れなくなっただけで、耳はちゃんと聞こえてるし。
言い返したくてもそれも叶わないから、視線を合わせることなく頷きだけで答えた。あえて視線を合わせないのは、例えそれが偽りだったとしても、笑ってる顔を見たくなかったから。
「でね、俺考えたんだけどさ、色々大変じゃん? その……ほら、智樹今そんなだしさ、それに……」
何が言いたいんだろう……
俺はメモ帳を開くと、それまで指で弄んでいたペンを走らせた。
『何が? 俺が喋れないから?』
無言で差し出したメモ帳を見るなり、雅也さんが笑顔の上に困惑の色を重ねた。そして俺の分のお茶まで飲み干すと、今度は俺の手からペンを取り上げ、メモ帳に何かを書き始めた。
つか、何で雅也さんが筆談するわけ? 大体、耳はちゃんと聞こえてるっつーの!
「はい」と俺の手元に戻って来たメモ帳には、決して綺麗ではないけど、特徴的な文字がギッシリと並んでいて、俺は半ばうんざりしつつも、それに目を通した。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる