君の声が聞きたくて

誠奈

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第3章   marcat

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 一度は上げた腰を慌ててベンチに戻す松下だけど、その足はしっかり内股になってる。

 「ちょっと待って? 桜木が一目惚れしたのって、ひょっとして男の子……なの?」

 別に揶揄っているわけでも、ましてやふざけているわけでもないんだろうけど、声のトーンまで心做しか高くなっているような気がするのは、多分俺の気のせいなんかじゃない。

 「まあ……な」
 「まあなって……、でも桜木って、その……ノンケでしょ?」
 「当たり前だ」

 生まれてこの方、惚れた相手は全員女だった。
 男友達は多いし、親友と呼べる奴も少なくはない。でも、そいつらに対して、ただの一度だって恋愛感情を抱いたことはないし、そいつらの顔がこんなにも頭から離れなかったことはない。

 「えっと……さ、桜木が俺達みたいなタイプっつーかさ、理解を示してくれるのは嬉しいし、もし桜木が……って思ったら、俺も心強いよ? でもさ、やめといた方が良い。絶対辛くなるから」

 終始俺が彼に惚れてるていで語る俺と松下の間に、なんとも言えない空気が流れる。


 つか、最早認めざるを得ない状況になってるような気がしないでもないが……


 「これでも俺、色んな人見てきてるから分かるんだよ。桜木みたいなタイプは、絶対に……ってわけじゃないけど、自分の感情と現実とのギャップに苦しむことになると思うんだ」

 現実とのギャップ……か、その意味で言えば、俺はもう既に苦しめられているのかもしれない。

 惚れた……と、完全に認めたわけじゃない。

 でも、たった一度……、それもほんの数十分一緒にいただけの男に、ここまで感情を支配されることなんて、今まで無かった。だから、ずっとその世界で生きて来た松下だからこそ言える言葉の重み……、みたいのを感じずにはいられなくて、俺は思わず漏れそうになった溜息を飲み込んだ。

 「なんか……ごめんね? せっかく相談してくれたのに、こんなことしか言えなくて」
 「いや、寧ろお前に話せて良かったよ。色々ハッキリして来たし……」

 俺の中に芽生えた、この意味不明な感情の正体に、明確な答えが得られたわけじゃない。


 けど、忘れよう……、その一言に辿り着くためには、松下の意見は十分な物だった。
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