君の声が聞きたくて

第３章 marcat

２

　「実は……さ、お前に聞いて欲しい……っつーか、教えて欲しいことがあって……」
　「俺……に？　桜木が？」

　最後に一本残ったパスタをツルんと啜った松下は、訝しげな表情で首を傾げた。
　そりゃそうだ、松下は元より、滅多に人にものを訊ねることをしない俺が、いくら同僚とは言え、松下に向かって「教えて欲しい」と言っているんだから、松下が怪訝な顔をするのも頷ける話だ。

　でも裏を返せば、それくらい俺は今、自分の中に巻き起こっている不可思議な感情に困惑している、ってことだ。

　「例えば……そうだな、お前が恋人にフラれたとするだろ？」
　「えっ、やだよ……、俺絶対別れないよ」

　例えば……と、しっかり前置きをしているにも関わらずの返しに、俺の肩がガクッと下がる。


　思い出した。松下って奴は、外見こそモデル並に格好良いが、中身は想像以上に天然だってことを……


　「だーから、例えばの話だよ……」
　「あ、そうだった。俺、つい。で、俺が恋人にフラれたとして……の続きは？」

　何事もなかったかのように、話の続きを求めて来る松下だけど、その顔は、さっきよりは若干真剣なものに変わっている。
　俺はコホンと咳払いを一つすると、この季節には少々不釣り合いな、熱いお茶を一口啜った。

　「そう、それでだな、フラれたとするだろ？　でも、何も感じないって言うか……」
　「プロポーズまでしてフラれたのに？」

　あまりにストレートな物言いに、俺の肩が再度下がったが、俺は戸惑うこともなく頷いた。

　「理由もきかされてないのに？」
　「ま、まあ……な……」
　「なのに何も感じてない……って？　悔しいとか、悲しいとかもなく？」

　いつの間に立場が逆転したのか、今度は俺の方が松下の質問攻めに合ってるような気がするのは、多分俺の気のせいなんかじゃない……んだろうな。

　「ねぇ、それってさ、本気で彼女のこと好きだったの？　って言うかさ、本気で彼女と結婚したいと思ってた？」

　意表をつく……というよりかは、的を得た松下の質問に、俺は思わず首を捻った。

　実際、俺自身それを考えなかったわけじゃないから。