君の声が聞きたくて

誠奈

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第1章   misterioso

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 「ところで、それは? 見たとこ、指輪でも入ってそうな箱だけど……」

 俺の差し出したリングケースを指差し、彼が首を傾げるけど、その仕草がとても幼く見える。


 俺よりも年下……だよな?


 そんなことをぼんやりと考えてしまう。

 「あ、まさかプロポーズとか?」
 「えっ? いや、これはその……」

 無意識とはいえ、どうして、そんな物を彼に向かって差し出したのか分からない俺は、返答に困ってしまう。
 俺は慌ててリングケースをポケットに捩じ込むと、上手い冗談も言えない自分自身に苦笑した。

 すると彼はすっかり雨に濡れた顔を綻ばせ、「よいしょ」と掛け声をかけてから腰を上げた。

 「なぁんだ、そっか、残念」
 「え……?」
 「てっきりプロポーズかと思っちゃったよ」

 身長は俺よりも少し小さいくらいだろうか、俺を見上げる視線が悪戯っぽく細められる。

 「い、いや……、そんな……まさか……」
 「ふふ、冗談だよ。 だって俺、ちゃんと恋人いるし。それに、お兄さん……俺の好みじゃないしね?」
 「は、はあ?」
 「あ、それともストーカーとか?」
 「ち、違う!」
 「もう……、そんなムキになんないでよ、冗談なんだから」

 揶揄われてるんだと……そう思った。

 だからついつい

「お、大人を揶揄うんじゃない」

 なんて真面目ぶってみたけど、実際、見ず知らずの男が突然目の前にリングケースなんか差し出してきたら……って考えると、不信感が湧くのも頷ける話だ。
 俺は深い溜息を一つ吐き出すと、彼に向かって傘を差しかけた。

 「家は? 近いのかい? もう遅いから、早く家に帰りなさい。親御さんだってきっと……」


 心配しているだろうし……


 言いかけた時、すぐ目の前にある彼の顔がクシャリと歪んだかと思うと、彼は突然腹を抱えて笑いだした。
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