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第14章

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 「相原君、だよね?」

 再度名前を呼ばれるけど、翔真さんが愛してやまなかったその人の顔を見るのが辛くて、俺は後ろを振り返ることなく小さく頷いた。

 「ずっと翔真の傍にいてくれたんだってね? 最期の時も……。ありがとう。アイツ、ああ見えて寂しがり屋だから、君が傍にいてくれて、安心しただろうね?」


 安心……?
 どうして? どうしてそんな事が言えるの?

 確かに、完璧とはとても言えないかもしれないけど、俺が出来る精一杯のことはしたつもりだ。だけど、それが翔真さんの安心に繋がるってのは、ちょっと違う気がする。
 

 「俺は何も……」
 「ねぇ、翔真に会わずに帰るつもりだったの?」
 「え……?」
 「翔真、きっと君が会いに来るのを、ずっと待ってたと思うよ?」


 嘘だ。翔真さんが俺を待ってる筈なんてない。


 俺は拳をギュッと握った。

 「俺じゃないですから。翔真さんが待ってたのは、俺じゃないですから……」

 気付けば俺の頬を、汗と一緒に涙が伝っていた。

 「どうして? どうしてそう思うの?」


 だって翔真さんが本当に会いたかったのは…


 「翔真さん、ずっとあなたのこと待ってたんです。あなたが迎えに来てくれるのを、ずっと……」

 翔真さんの目も耳も、いつだってあなたを探して彷徨ってたのを、ずっと傍で見ていた俺は知ってる。

 「ごめんなさい、俺帰ります」

 目に溜まった涙をギュッと握った拳で拭うと、俺は足を踏み出した。

 「それは違うよ。翔真が本当に会いたがってるのは、君なんじゃない? 俺はそう思うけど?」

 その言葉に、俺の足がまた止まった。
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