桜の葉が舞い散る季節、あなたの傍にいられたら

第７章

４

　一度口を付けたきり、暫くの間ペットボトルを握り締めていると、廊下の向こうから一人の男がこちらに向かって歩いてきた。


　あれは……、雅也……か？


　「お待たせ……」

　そう言った雅也の顔は、すっかり色をなくしていて、心なしか目が潤んでいるように見えるのは、俺の気のせいだろうか？

　「どうかしたのか？」

　俺と目を合わせようとしない雅也に声をかけるが……

　「いえ、どうもしないですよ。行きましょうか？」

　いつもの天真爛漫さはすっかり影を潜めた悲しげな笑顔が俺を見下ろし、俺に向かって手が差し出された。


　何がお前をそんなに悲しい顔にさせている……


　問いかけたい気持ちを押し殺して、俺はその手を掴んだ。その原因が俺にあるとも知らずに……




　三人で並んで無機質な建物を出ると、少しだけ曇った空を見上げた。

　「降ってきそうですね？」

　同じように曇り空を見上げた二木がポツリ言う。


　雨は嫌いだ。彼と別れたあの日を思い出すから……

　彼の泣き顔を思い出すから…


　「けっこう時間食っちゃったんで、急ぎましょうか」

　駐車場に向かい、二木の運転する車に乗り込んだ。その間も雅也の手は、俺の手をしっかり握ったままだ。

　でも、それが全然嫌じゃなくて、寧ろ安心する。

　俺は車窓を流れる景色を眺めたまま、ゆっくりと瞼を閉じた。



　俺は一体どこに向かっているんだろう……