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番外編 ー朝月夜ー 其の一
八
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翔真が頭を下げ続ける間、大田は剪定の手を止めることはなかく、二間続きの広間には、大田が操る剪定鋏の音と、枝が落とされる音だけが響いていた。
どれくらいそうしていたのか、パチン……と一際大きな音が響き、ふと翔真が顔を上げると、大田が徐に座を立ち、庭へと続く縁側に向かった。
そして翔真を振り返ることなく、「着いて来い」とだけ言うと、縁側から庭へと降りた。
「は、はい……」
長く座していたせいか、微かに痺れを感じる足を引き、翔真はゆっくりと足取りで先を行く背中を追った。
一体どこへ……?
そんな疑問は、念入りに手入れされた庭を抜け、まるで別世界へと踏み込んだかのように一変した景色を前にした瞬間、一気に吹き飛んだ。
ここは……
まだ陽の高い時刻だと言うのに、そこだけは昼夜が逆転してしまったかのように暗く、ともすれば恐怖さえ抱かせてしまうようで、禍々しささえ感じさせた。
「ず、随分と古い蔵……ですね」
懐から出した鍵の束を手に、鉄扉の前に立つ父の背に問いかけるが、その声は心なしか震えているようにも聞こえる。
「そうだな……、私が産まれる以前から建っているのだから、四、五十年……いや、もっと前かもしれんな」
鍵束の中から迷うことなく一本を抜き取り、それを南京錠へと差し込む。
すると、錆び付いた見た目からは想像も出来ないような、小気味の良い金属音を立てて錠が外された。
どれくらいそうしていたのか、パチン……と一際大きな音が響き、ふと翔真が顔を上げると、大田が徐に座を立ち、庭へと続く縁側に向かった。
そして翔真を振り返ることなく、「着いて来い」とだけ言うと、縁側から庭へと降りた。
「は、はい……」
長く座していたせいか、微かに痺れを感じる足を引き、翔真はゆっくりと足取りで先を行く背中を追った。
一体どこへ……?
そんな疑問は、念入りに手入れされた庭を抜け、まるで別世界へと踏み込んだかのように一変した景色を前にした瞬間、一気に吹き飛んだ。
ここは……
まだ陽の高い時刻だと言うのに、そこだけは昼夜が逆転してしまったかのように暗く、ともすれば恐怖さえ抱かせてしまうようで、禍々しささえ感じさせた。
「ず、随分と古い蔵……ですね」
懐から出した鍵の束を手に、鉄扉の前に立つ父の背に問いかけるが、その声は心なしか震えているようにも聞こえる。
「そうだな……、私が産まれる以前から建っているのだから、四、五十年……いや、もっと前かもしれんな」
鍵束の中から迷うことなく一本を抜き取り、それを南京錠へと差し込む。
すると、錆び付いた見た目からは想像も出来ないような、小気味の良い金属音を立てて錠が外された。
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