雪・月・華 ー白き魂ー

番外編 ー白き腕ー 野瀬さと・作

七

笑い転げる智樹の膝から五助が飛び降りた。

「五助！おきたの！」

きゃんと鳴く五助を追いかけ部屋の中を智樹が走る。

「智樹、急に走ったら…」

萎えた足は長い時間、智樹が立っているのを許さない。
ましてや走ることなんて、五助が来るまで智樹はしたことがなかった。

「あっ…」

潤一が立ちあがって智樹に駆け寄った瞬間、智樹の身体は前のめりに倒れた。
その白い身体をなんとか受け止め、潤一は安堵の息を吐く。

「智樹…だめだよ？急に走っちゃ…」
「うん…」

潤一の腕に凭れて、智樹は荒い息を吐いていた。
抱きかかえ布団に横たえると、潤一も横になった。
智樹の身体が潤一に寄り添い、やがてその胸に顔を埋めた。

「智樹…？」

なにも答えないで、ただ智樹は潤一の服をぎゅっと掴んだ。

「明日も…来てくれる…？」
「え…？」
「五助を…連れて来てくれる？」

それは智樹の本心ではなかった。
本当は潤一にこそ来て欲しい。
だけど、それは言ってはならない気がしていた。

「ああ…明日も五助を連れてくるよ…」

潤一の手が智樹の銀糸の髪を撫でていく。
その心地よさに、いつしか智樹の瞼は降りていく。
必死で抗うのだが、勝てなかった。

もっと…潤一とおはなししたいのに…