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第三章 ー華ー
七
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「預かってもらえませんか?」
鳴り止まぬ雷鳴と、闇を裂く稲光に照らされた潤一の顔が、青白く光る。
「どうして俺……に?」
腕の中でクンと鼻を鳴らした五助の頭を撫で、翔真は潤一を見つめた。
潤一は視線を逸らすことなく、狂気に彩られた顔を少しだけ和らげた。
「あなたがあの人のことを……」
愛してるから……
潤一の最後の言葉は、激しく振り付ける雨音に掻き消され、翔真の耳には届かない。
「僕がどうしたって?」
聞き返すが、潤一はそれに応えることなく、瞼をそっと伏せて首を横に振った。
潤一は翔真が父親に逆らうことも出来ず、ただ言いなりになっていることを知っていた。
男たちが〝用〟を済ませ蔵を出て行った後、翔真はいつも男たちの欲に塗れた智樹の身体を清め、時には意識を無くした智樹の身体に縋り涙を流する姿を、潤一は何度となく目にしていた。
ああ、この人もまた俺と同じ……
智樹を愛している
秘めた想いを胸に抱き、苦しんでいる
その苦しみは、兄弟が故に幾ばかりか……
翔真が人知れず涙を流す度、潤一の胸も同じように傷んだ。
「潤一、お前何をする気だ」
翔真の問いには応えず、潤一は羽織っていた合羽を脱ぐと、それを翔真のずぶ濡れの身体にかけた。
そして潤一の腕を掴んだ翔真の手を払い、「五助を頼みます」とだけ言って蔵の重い扉を開けた。
五助がクンクンと鳴き、腕の中で暴れるのを翔真は必死で抑え込み、ゆっくりと扉が閉じられるのをただ立ち尽くし、茫然と見つめていた。
鳴り止まぬ雷鳴と、闇を裂く稲光に照らされた潤一の顔が、青白く光る。
「どうして俺……に?」
腕の中でクンと鼻を鳴らした五助の頭を撫で、翔真は潤一を見つめた。
潤一は視線を逸らすことなく、狂気に彩られた顔を少しだけ和らげた。
「あなたがあの人のことを……」
愛してるから……
潤一の最後の言葉は、激しく振り付ける雨音に掻き消され、翔真の耳には届かない。
「僕がどうしたって?」
聞き返すが、潤一はそれに応えることなく、瞼をそっと伏せて首を横に振った。
潤一は翔真が父親に逆らうことも出来ず、ただ言いなりになっていることを知っていた。
男たちが〝用〟を済ませ蔵を出て行った後、翔真はいつも男たちの欲に塗れた智樹の身体を清め、時には意識を無くした智樹の身体に縋り涙を流する姿を、潤一は何度となく目にしていた。
ああ、この人もまた俺と同じ……
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秘めた想いを胸に抱き、苦しんでいる
その苦しみは、兄弟が故に幾ばかりか……
翔真が人知れず涙を流す度、潤一の胸も同じように傷んだ。
「潤一、お前何をする気だ」
翔真の問いには応えず、潤一は羽織っていた合羽を脱ぐと、それを翔真のずぶ濡れの身体にかけた。
そして潤一の腕を掴んだ翔真の手を払い、「五助を頼みます」とだけ言って蔵の重い扉を開けた。
五助がクンクンと鳴き、腕の中で暴れるのを翔真は必死で抑え込み、ゆっくりと扉が閉じられるのをただ立ち尽くし、茫然と見つめていた。
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