雪・月・華 ー白き魂ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
18 / 53
第三章  ー華ー

しおりを挟む
 その日、朝から降り続いた雨は、夜になっても一向に止む気配を見せず、潤一は一つ舌打ちをすると、五助を懐に入れ、その上から合羽を着こんだ。

 建付けの悪い戸の隙間から顔を少しだけ出し、周囲に人がいないのを確認してから、部屋を抜け出そうと身体を半分程出した、その時だった。

「こんな時分にどこへ行くんだい」

 感情のない照の声が、潤一を引き留めた。

「どう……して?」


 いつもなら蔵に膳を運んでいる筈の時刻。
 なのに何故……


 潤一は不審に思いながらも、出鼻を挫かれたことに苛立ちを感じた。

「部屋へお戻り」

 照は周囲の様子を伺いながら、自分を睨め付ける潤一の背中を部屋の中へと押しやり、錆で朽ちかけた錠をかけた。

 潤一は苛立ちを隠せない様子で、乱暴に合羽を畳の上に脱ぎ捨てると、懐に抱いた五助を解放した。

「そこにお座り」

 威圧的な照の口調に、潤一は逆らうこともなくその場に胡座をかくと、小さな卓を挟んで向かい合わせに座った二人の間に、未だかつて感じたこともないような重苦しい空気が流れる。

「まったくお前って子は……」

 照は深い溜息を一つ吐いて、卓の上に所在なさげに投げ出された潤一の手に、長い年月の末に刻まれた皺だらけの自分の手を、そっと包み込むように重ねた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

処理中です...