495 / 688
第27章 日常12:僕、さよなら…、だよ
19
しおりを挟む
「あの……、本当にありがとうございました」
車を降りた僕は、運転席に座る松下さんに向かって深々と頭を下げた。
松下さんがいなかったら、きっと今頃僕は、人目も気にせずに大声で泣いてたかもしれない。
「とりあえず帰るから、何があれば遠慮なく連絡して来い」
「はい……、あ、和人には……」
きっと和人も心配してる筈だから……
「ああ、俺から話しておくから、お前は余計な心配するな」
「お願いします。じゃ……、僕、行きます」
もう一度松下さんにお礼を言った僕は、後ろを振り返ることもなく、正面の玄関から建物の中に入った。
エレベーターを待つ間、母ちゃんが残したメモにもう一度目を通し階数を確認した僕は、丁度タイミング良くドアの開いたエレベーターに乗り込んだ。
ほのかに鼻を掠める病院独特の匂いに緊張感が余計に増して、階段を使うよりは確実に早い筈のエレベーターにさえ、もどかしさを感じた。
そしてエレベーターが目的の階に着き、ドアが自動で開いた瞬間、僕は天井から吊られた案内を頼りに、走り出した。
「病院の廊下は走っちゃダメ」って子供の頃母ちゃんに何度も言われたのを思い出したけど、今はそれどころじゃなかった。
一刻も早く父ちゃんの元へと行きたかった。
あんなに嫌ってたのに……
職人気質なせいかやたらと頑固で、僕や姉ちゃんの運動会にだって一度も来たことないし、お酒を飲めば仕事の愚痴ばっか言って….…、そのうち勝手に寝ちゃって……
いっつも母ちゃんを困らせてばっかだった父ちゃんのことが、僕は大嫌いだった。
僕が女の子じゃなくて、本当は男の子が好きだって言った時だって、僕は死ぬ覚悟でカミングアウトしたのに、父ちゃんは全然相手にしてくれないどころか、僕を汚い物でも見るように見ただけで何も言ってくれなくて……
本当はさ、認めてくれなくても……殴られるのはちょっと嫌だけど、僕のことをちゃんと見て欲しかった。
罵られたって良いから、何か一言……、たった一言で良いから言って欲しかった。
……って、今更言ってももう手遅れなんだろうけど……
車を降りた僕は、運転席に座る松下さんに向かって深々と頭を下げた。
松下さんがいなかったら、きっと今頃僕は、人目も気にせずに大声で泣いてたかもしれない。
「とりあえず帰るから、何があれば遠慮なく連絡して来い」
「はい……、あ、和人には……」
きっと和人も心配してる筈だから……
「ああ、俺から話しておくから、お前は余計な心配するな」
「お願いします。じゃ……、僕、行きます」
もう一度松下さんにお礼を言った僕は、後ろを振り返ることもなく、正面の玄関から建物の中に入った。
エレベーターを待つ間、母ちゃんが残したメモにもう一度目を通し階数を確認した僕は、丁度タイミング良くドアの開いたエレベーターに乗り込んだ。
ほのかに鼻を掠める病院独特の匂いに緊張感が余計に増して、階段を使うよりは確実に早い筈のエレベーターにさえ、もどかしさを感じた。
そしてエレベーターが目的の階に着き、ドアが自動で開いた瞬間、僕は天井から吊られた案内を頼りに、走り出した。
「病院の廊下は走っちゃダメ」って子供の頃母ちゃんに何度も言われたのを思い出したけど、今はそれどころじゃなかった。
一刻も早く父ちゃんの元へと行きたかった。
あんなに嫌ってたのに……
職人気質なせいかやたらと頑固で、僕や姉ちゃんの運動会にだって一度も来たことないし、お酒を飲めば仕事の愚痴ばっか言って….…、そのうち勝手に寝ちゃって……
いっつも母ちゃんを困らせてばっかだった父ちゃんのことが、僕は大嫌いだった。
僕が女の子じゃなくて、本当は男の子が好きだって言った時だって、僕は死ぬ覚悟でカミングアウトしたのに、父ちゃんは全然相手にしてくれないどころか、僕を汚い物でも見るように見ただけで何も言ってくれなくて……
本当はさ、認めてくれなくても……殴られるのはちょっと嫌だけど、僕のことをちゃんと見て欲しかった。
罵られたって良いから、何か一言……、たった一言で良いから言って欲しかった。
……って、今更言ってももう手遅れなんだろうけど……
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる