H・I・M・E ーactressー

誠奈

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第27章  日常12:僕、さよなら…、だよ

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 久し振りに楽しいと感じた一日だった。

 残暑が厳しい中での引っ越し作業は大変だったけど、時折り笑いを交えながらだったせいか、全然苦には感じなくて……

 勿論、ずっと動いてなかったから、確かに身体は疲れているけど、嫌な疲労感じゃないし、寧ろ久し振りに身体を動かして、スッキリしたとさえ感じる。

 それに晩ご飯も……

 ここ最近、家に一人でいることが多かったせいか、食欲ってのをあんまり感じてなかったんだけど、やっぱり誰かと一緒にご飯を食べるって、凄く楽しいし、食欲がなかったのが嘘みたいに食が進んだ。


 だってさ、一人だと作ってる途中でお腹いっぱいになっちゃうんだもん。


 だから和人と相原さん、それから松下さんと過ごす時間は、凄く楽しかった。

 でも、こうして一人の部屋に戻ってくると、やっぱり寂しくて……

 勿論、今までとは環境が違うってのもあるんだろうけど、どこに身を置いたら良いのかさえ、分からなくなってしまう。

 ずっと欲しくて、でも今までのアパートでは置き場がなくて諦めていたソファーにも、座る気すら起こらない。

 
 せっかく清水の舞台から飛び降りるくらいの気持ちで買ったソファーなのにな……


 僕は、ラグだけ敷いた床に愛用していた座布団を敷くと、その上に胡坐をかいて座った。

 新しい部屋は、壁だって真っ白で綺麗だし、フローリングの床だって凄く気持ちが良いんだけど、僕的にはやっぱりこの方が落ち着く。


 これじゃせっかく思い切って引っ越した意味ないじゃん。


 はあ……、と一つ溜息を落とした僕は、以前のアパートに比べると、若干狭くなったと感じるキッチンに立った。

 冷蔵庫から缶ビールと、それから相原さんが引っ越し祝いにと持って来てくれた、どこぞの有名パティシエ(名前は忘れちゃった)プロデュースのプリンを取り出し、それを手にまた座布団の上に座った。

 折り畳みテーブルに缶ビールと、お洒落なカップに入ったプリンを置いて、一人小さく手を叩くと、明らかに荷物の少ない部屋にやたらと大きく響いたような気がして、僕は一人苦笑いをした。
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