H･I･M･E ーactressー

第26章 日常11：さよなら…言わなきゃだめ？

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　「確か……、言わなければ良かった……、って」


　え……？
　それって、まさか……？


　僕が驚いて目を丸くしていると、松下さんは更に言葉を続けた。

　「気付いてないフリをすれば良かった、とも……」
　「え、それってさ、桜木くんはずっとＨＩＭＥが智樹だって気付いてた、ってこと？　なのにずっと気付いてないフリをしていたの？｣

　僕の手を握った和人の手に力が入る。

　「いつから……とかは、分かんないよね？」

　僕の背中を撫でていた相原さんの手すら、ピタリと止まる。

　「そこまでは俺も分からないが、恐らく……」

　酷い……、と小さく漏らして、和人が悔しそうに唇を噛んだのを見て、僕のために怒ってくれてるんだと思った。

　でも当の僕はそうでもなくて…… 

　「そう……なんだ……？　翔真くん、気付いてたんだね…」

　多分、今この四人の中で一番冷静なのは僕で、でも何も考えられないくらい、思考が停止してしまっているのも、僕なのかもしれない。

　「そっ……か……」


　正体がバレてるのも知らず、翔真くんの前で一生懸命ＨＩＭＥになり切ろうって、必死で演技してたなんて……

　僕って、鈍感で、正真正銘のバカで、なんだと思う。
　おまけにとんでもなく大根役者じゃん……

そう思ったら、何だか急に笑えて来ちゃって……


　「智樹……？」

　和人が心配そうに僕の顔を覗き込むけど、僕は視線すら合わせることが出来ず、両手でお顔を覆った。

　「ねぇ、智樹ってば……」

　和人はそれでも僕の顔を覗き込むのを止めず、僕の身体を揺らし続けたけど、正直、僕には何一つ答えることは出来ないし、無理矢理な笑顔さえ作ることが出来ない。


　だってそんな気力なんて、もうどこにも残って無ってないんだもん。


　「和人、そっとしといてやんなよ」


　うん、出来れば僕も今はそっとしておいて欲しいよ……


　「だけどさっ……」

　でも和人が僕を思ってくれてるのも、すっごく分かるから、そんな和人の手を振りほどくなんて、僕には出来ないんだよね。


　はぁ……、僕、どうしたら良いんだろ……
　もう分かんないや……