H･I･M･E ーactressー

第26章 日常11：さよなら…言わなきゃだめ？

６

　結局、僕は社長からの、ありがた過ぎるプレゼントを断ることが出来ず……

　長井さんが送ってくれることを良いことに、和人のマンションまで送って貰うことにした。


　だってさ、いくら中身はハンバーガーって言ったってさ、こんな大量だと持ち歩くのだって大変なんだもん。

　おかげで楽チンだったけどね♪


　「じゃあ、また何かあれば連絡する」
　「はい。あ、あの……、色々お世話になりました」

　もしあの時、長井さんが僕に声をかけてくれなかったら、僕はＨＩＭＥとしてみんなに愛されることもなかったし、大変なこともあったけど、僕自身ＨＩＭＥとして別の人生……って言ったら大袈裟かもだけど、凄く楽しめたから……　

　だから長井さんにはいくらお礼を言っても足りないくらいだ。

　「あ、でもまた会えるよね？」
　「さあな、俺もお前の担当外れることになるし、今までみたいにはいかんだろうな」


　うん、それは僕だって分かってる。
　でもさ、このままバイバイするのはさ、やっぱり寂しいじゃん？


　「僕、斗子さんの娘なんだしょ？　だったらさ、長井さんの娘でもあるわけじゃん？」

　本当はもうちょっとこざっぱりした人が良いけど、長井さんだったら、ちょっとくらいむさ苦しくたって許せちゃう♪

　「ば、馬鹿なことばっか言ってないで、さっさと行け」


　ふふ、見た目に反して照れ屋さんなとこも、僕は嫌いじゃない。


　「うん。あ、これ……、三人でも絶対に食べきれないだろうから、長井さんにもお裾分けね♪｣

　僕は袋の中からハンバーガーを五つ取り出すと、無人になった助手席に並べた。
　そしてドアを閉めると、ＨＩＭＥスマイルならぬ智樹スマイルで手を振り、大急ぎでマンションのエントランスに駆け込んだ。


　だって「いらない」って突き返されたら困っちゃうもん。


　いつまでも発進しない車を視界の端に入れながら、和人の部屋の番号をプッシュする。

　すると、数秒も待つことなくドアが開き、僕はもう一度長井さんの車を振り返り、手を振ってからエレベーターホールへと向かった。


　全く会えなくなるわけじゃない。

　でもちょっぴり寂しかった。