H･I･M･E ーactressー

第26章 日常11：さよなら…言わなきゃだめ？

２

　体調も大分戻り、僕は事務所を訪ねた。

　僕がダウンしてる間、何度も連絡をくれてたからさ……、それも社長が直々に。
　だからそのお礼も兼ねて……感じ？

　最寄り駅までの迎えは、長井さんがしてくれた。

　もうＨＩＭＥでも何でもない、ただの大田智樹なのにさ、親切にして貰っちゃて、何だか申し訳なくなっちゃう。

　それでも、長井さんのお顔が見れることが嬉しくて……

　おかしなもんだよね、前はさ、無愛想で、いっつも怒ってるように見えて、鬼軍曹なんて言ってたけど、そんな無愛想顔も暫く見ないと懐かしく感じるもんだね？

　「あ、ねぇ、斗子さんは？　元気？」
　「まあな。お前のこと心配してたぞ？」
　「そっか……、そうだよね……」

　あの時、ろくにお礼も言えないままになっちゃったから、僕もちょっと気になってたんだ。

　「長井さんからお礼言っといてよ」

　本当は直接僕の口から伝えられたら良いんだけど、もう僕はＨＩＭＥでもなんでもないから、そう簡単に会う訳にはいかない……と思ってたんだけど……

　「直接言いに行けば良いだろ。アイツも待ってるし……」
　「え……？」

　意外すぎる答えに、僕は驚いて目を白黒させた。

　「娘みたいなんだとさ……。俺にはどうにも理解出来んが……」
　「む、娘って……、斗子さんまだ若いのに……」


　それに、妹みたいとは言われたことあっても、娘みたいって言われたのは……初めてかも。
　ま、それだけ僕が頼りないってことなんだろうけど、何だかちょっぴり擽ったいや……

　ってゆーか、斗子さんがお母さんだったら、お父さんは長井さん……ってこと？
　え、それはちょっと……、ねぇ？
　

　「で、今日は何の用事なの？」
　「さあな、俺にも分からん」

　まあ……、そうだよね。

　僕は寝そべる勢いで倒れたシートに深く背中を預けた。


　あ、まさか僕の引退取り消し、とか？

　それはすっごく困るし、あの社長さんなら言いそうだけど、もしそーゆーお話なら、ハッキリキッパリお断りしなきゃ。

　じゃないと、お仕事とは言え、あんな酷い目に合ったことが全部無駄になっちゃうもん。

　うん、それだけは絶対ダメだよ。

　……って言いながら、流され易いからな、僕。