H･I･M･E ーactressー

第24章 ｓｃｅｎｅ５：ツルテカな僕

４

　あーあ……、こんな時に長井さんがいたら、きっと有無を言わさず……なんだろうけど、残念ながら長井さんは駐車場で……

　僕は頭を下げたままで、この場をどうやり過ごそうかと、そればっかりを考えていた。

　すると……

　「あのさ、俺のこと……、覚えてないかな？」

　下げた頭の上から言われて、僕は頭を下げたままで小首を傾げた。

　「えと……、ごめんなさい、ＨＩＭＥ……記憶力弱く……て……」　


　って、え？
　まさかこんな所で声をかけられるとも思ってなかったし、ビックリしたせいで気付かなかったけど、この声って……まさか？


　「俺……、松下潤一の従兄弟で、この間撮影現場にもお邪魔した……」


　え、え、え、嘘っ……！

　だって何で？
　何で翔真くんがこんな所に……？

　ってゆーか、僕どうしたら良いの？

　こんな不意打ち、超困るんだけど……　

　でも、ずっとこのままってわけにもいかないよね？
　それに翔くん、目の前にいるのが僕だってこと、全然疑ってないみたいだし……

　だったら……


　「えっとぉ……、桜木くん……だったかな？」

　もうＨＩＭＥになりきって乗り切るしかないよね？
　ってゆーか、なりきらなくてもＨＩＭＥなんだけどね？

　「嬉しいなぁ、覚えててくれたんだ？」
　「ふふ、勿論よ。ＨＩＭＥのこと好きって言って貰えて、ＨＩＭＥ……とーっても嬉しかったんだもん」

　本当は、ＨＩＭＥとしての僕じゃなくて、智樹としての僕が……って言って欲しいけど、でも嬉しかったのは嘘じゃない。

　外見が違っても、僕を好きだって言ってくれたことに違いはないんだから……

　「ところでこんな所で何を？」

　あん、それ僕が先に聞きたかったのにぃ……

　「あ、もしかして仕事行く途中なのかな？」
　「え、あ、うん、そうなの、これからお仕事なんだけど、ちょっとお腹が空いちゃって……」

　僕は咄嗟に適当な嘘をついて誤魔化してみたけど……、ちょっぴり罪悪感。


　だって大好きな人に嘘をつくのって、とっても心苦しいんだもん。
　分かるでしょ？