H･I･M･E ーactressー

第22章 日常10：僕、決めた！

５

　両腕を組んだまま、「なるほどね～♪」とニヤニヤ笑いを浮かべる和人。

　僕はと言えば、あまりの恥ずかしさに、穴があったら挿れたい……、じゃなくて入りたいくらいの気分で……
　どんどん熱くなって行く顔を、手でパタパタと扇いだ。

　「まあでも、桜木くんが正常なのも分かったし、男同士のセックスに対して偏見も無いみたいだし……」
　「うん……」
　「後は智樹がどうしたいか、ってことだけね？」


　僕がどうしたいか、か……

　そりゃ翔真くんと付き合えたら最高なんだけど、それにはまず僕自身が色々決断しなきゃいけないことがある。


　僕はスッと息を吸い込むと、顔を引き締め（……たつもり）、丸まった背中をピンと伸ばした（……たつもり）。

　「僕ね、辞めようと思うんだ」
　「辞めるって……、何を……？」

　和人の片眉がピクリと上がる。

　「だから……、ＡＶのお仕事、辞めようかなって、思って……」

　この先翔真くんとの関係がどうなるかなんて、僕には分かんないけど、今のままＡＶのお仕事を続けていちゃいけない気がするんだ。

　「長井さんには？　相談したの？」
　「ううん、まだ。なかなか言い出せなくて……」


　ってゆーか、驚かないの？
　僕がＡＶのお仕事辞めるって言ったら、和人のことだから当然のように驚くと思っていたんだけど……


　「そっか。良いんじゃないの？」


　え、それだけ？


　和人が案外普通の顔してるから、ちょっぴり不安になってしまう。

　「良いの？　僕、辞めちゃっても……」
　「良いも悪いも、決めるのは智樹でしょ？　私がとやかく言うことじゃないもの。ただ……」

　そう言ったきり、難しいお顔で黙り込んでしまうから、僕の不安が更に大きくなる。

　「ただ……、何？」

　普段人を急かすことのない僕だけど、和人が何を言おうとしているのか気になって仕方がない。

　「ねぇ、言って？」

　僕は、組んだまま解こうとしない和人の腕を掴んだ。

　「ただ、何なの？」

　すると和人は漸く腕を解き、今度は僕の手を掴み直すと、ちょっぴり怖いお顔をして、「良く聞いてね？」って真剣な声で僕に言った。