H･I･M･E ーactressー

第15章 日常６：焦る僕と浮かれる彼

４

　「貸して？」

　店長に怒られ、シュンとする僕の手から、桜木くんがカゴの取っ手を取り上げ、代わりのカゴを僕に差し出した。

　「とりあえず片付けちまおうぜ？」

　言いながら桜木くんが取っ手の取れたカゴを隅に置き、僕の足元に散乱したＤＶＤを一枚一枚、ケースの破損がないか確認しながら、カゴの中に詰めて行く。
　でも僕はその姿をただ見ていることしか出来なくて……

　「ごめん……」

　一応謝ってはみたけど、でも元はと言えば桜木くんのせいなんだから、僕は悪くないもん。
　……なんて言い訳が通じる筈もなく……

　「これから忙しい時間帯になるんだから、さっさと棚並べて来い」

　店長にジロリと睨まれて、僕はまたシュンとしてしまう。

　だって僕、今まで店長に怒られたことなかったもん。
　失敗らしい失敗もしたことないから、それも当然のことなんだけど、初めてだったんだもん。

　「行こうぜ？」

　落ち込む僕の腕を、ＤＶＤがギッシリ詰まったカゴを抱えた桜木くんが引っ張った。

　「うん……」

　僕はレジに並ぶお客さんにペコリと頭を下げカウンターを出ると、桜木くんに引き摺られるように店の奥……の更に奥、黒字にショッキングピンクの文字が眩しい暖簾の奥へと入った。

　「なんかごめんね？　桜木くんまで怒られちゃったみたいになっちゃって……」

　元はと言えば桜木くんが悪いんだけどね？（しつこい！）

　「別に気にしてないよ。それよりさ、これ見てよ」

　そう言って桜木くんが僕の目の前に差し出して来たのは、一本のＤＶＤで……

　「やっぱ可愛いよな……」

　それも、僕……ってゆうか、ＨＩＭＥのＤＶＤで……
　パッケージの裏面、そうＨＩＭＥがお股おっ広げで、おっぱいと息子に手を添えた画像（勿論ぼかし加工有り）で……

　目を♡にする櫻井くんの隣で、僕は思わずギョッとしてしまう。
　でも僕が隣でどれだけ驚こうと、桜木くんの目にはＨＩＭＥしか見えてないんだよね？

　「こんな可愛い娘こにさ、目の前でアンアン言われちゃったらさ、マジで堪んねぇよな……」

　やっぱり目を♡にしてる。


　ってゆーか、そのアンアン言ってた可愛い娘は、この僕なんですけどね？