H･I･M･E ーactressー

第10章 日常４：彼のベッド

18

　どれくらいそうしていたんだろう……

　僕は地震でも起きたかのような地鳴りみたいな足音と、

　「大田くん！　大田くん！　大田くん！」

　僕の名前を連呼する桜木くんの声に、ハッと我に返った。


　ヤ、ヤバイ……、まだ朝ご飯の準備何もしてない……


　徐々に近付いて来る床が抜けちゃいそうな足音に、僕は俄に焦り出す。


　えっと……、お鍋は……

　あ！
　パンで良いって言ってたんだっけ？

　んと、パンは……


　他人の家なんだから当然なんだけど、使い勝手の分からないキッチンを、僕は一人右往左往を始め……

　「大田くん！」

　僕の名前を呼びながら、桜木くんがキッチンカウンターをバンと叩いた瞬間、「ひぃっ…！」と変な声が出て、僕は飛び上がる勢いで背中をビクンと震わせた。

　「ご、ごめん……、実はまだ……」

　てっきり朝ご飯が出来ていないことを咎められるとばかり思っていた僕は、咄嗟に謝ろうとした。

　でも実際はそうじゃなかったみたいで……

　「ちょっと聞いて！」

　カウンターに身を乗り出して僕の腕を掴むと、手に持っていたスマホを僕の前に突き出して来た。

　「な……に？　スマホがどうかした……の？」
　「違うよ、スマホじゃなくてさ、これ！」

　桜木くんはスマホのトーク画面を開くと、「ここ読んで！」とスマホの画面を指でトンと弾いた。

　「で、でも……」

　人様のスマホを見るのって、何だか気が引ける様な気がして好きじゃない僕は、咄嗟に視線をスマホから逸らした。

　でも…‥

　「いいから！　早く見てって！」

　尚も僕にスマホを見るように促して来る桜木くんに、僕はちょっとくらいなら……と躊躇いつつもスマホの画面に視線を落とした。


　えっと……、なになに……？


　『前言ってた撮影現場の見学の話し、監督に許可貰ったから、今度連れてってやる』


　ふーん……、見学ね……


　「何だか良く分かんないけど、良かった……ね」


　って……、ん？
　どゆこと？