H･I･M･E ーactressー

第９章 日常３：彼の部屋

４

　桜木くん、怒ってるかな？
　変に誤解してなきゃ良いけど……


　そんなことを考えながら業務をこなし、いよいよ待ちに待った休憩時間。
　僕は、長針と短針が重なるのを待って、スタッフルームに駆け込んだ。エプロンを外す間も惜しんで、ロッカーに仕舞い込んだリュックからスマホを取り出した。


　もし返信がなかったら……
　いや、それどころか既読すらついてなかったらどうしよう……

　あ、寧ろ無視してくれた方が、僕的にはありがたいのかも？


　僕は心臓がバクバクするのを感じながら、メッセージアプリを立ち上げた。


　お願い、何事もなかったようにスルーして！


　心の中で祈りながら……

　でも現実はそんな甘いモンじゃないよね？

　一応既読マークはついてたし、返信のスタンプだって送られて来てたけど、そのスタンプってのがさ、ＨＩＭＥに良く似たキャラクターが、眉間に皺寄せて「チッ！」って舌打ちしてるスタンブで……

　それを見た瞬間、僕の頭も肩も、見事なくらいにガクーンと落っこちた。


　そりゃそうだよね、あんなスタンプ送られたら、桜木くんじゃなくてもそうなるよね……


　僕は溜息を一つ落とすと、スマホの画面にメッセージを入力した。

　『ごめん、さっきのスタンプは間違い』
　『今日バイト休みみたいだけど、どうしたの？』って。

　すると今度は数秒も待つことなく既読がつき……、それから更に遅れること数秒……

　『風邪引いた』と、短いメッセージが返って来た。


　え、桜木くんが風邪？


　『熱は？』

　『３９度ちょいある…… 』


　マジか……


　『家に誰もいないの？』

　確か実家暮らしだって言ってたような気がしたけど……

　『親、旅行行った。俺一人』

　嘘でしょ……

　『一人で大丈夫？』
　『大丈夫じゃない。死にそう』

　だよね……、そんだけ熱あったら辛いよね……
　きっと病院にも行ってないだろうし……、どうしよう……