H･I･M･E ーactressー

第６章 ｓｃｅｎｅ２：ファッションホテル

９

　「ね、ね、そんなとこに立ってないで、早くお部屋入りましょ？　凄く可愛いお部屋なのよ？」

　ＫＡＺＵが僕の手を掴んで、半ば強引に部屋の中へと引き込む。
　厚底に慣れてない僕は、一瞬足が縺れて転びそうになるけど、憧れのＫＡＺＵの前で転んだら恥ずかしいと思って、何とか踏ん張る。


　ってゆーか、こんなに美人さんなのに案外力強いのね？


　「見て見て、このベッド、可愛くない？」

　ピンクとゴールドに彩られたカバーがかけられた円型のベッドは、通路と同じくピンク一色の空間にあって存在感抜群で……

　「うわぁ……」

　見てるだけでドキドキしちゃう♪

　「ね、こっちも見て？　このドレッサー、すっごく素敵じゃない？」
　「ホントだぁ……」

　しっかりＬＥＤライトも付いてて……あ！　これってもしかしてプリンセスミラーってやつ？

　ふふ、ちょっと嬉しい♪


　「あ、あのぉ、ここでメイク直しても良いですか？」

　ろくな照明も無い上に、大急ぎで準備したから、メイクが中途半端になっていたことを思い出した。

　「くく、そのままでも十分可愛いのに？」

　それは分かってるけど……、せっかくＫＡＺＵに抱かれるのに、中途半端な状態じゃ申し訳ないもん。

　僕はドレッサーの前にメイクボックスを広げると、ＫＡＺＵの見ている前でメイクを始めた。


　うん、やっぱりライトがあると全然違う♪


　僕は鏡に映る自分の顔（ＨＩＭＥ状態のね）を、右へ左へと角度を変えながら隈無くチェックを繰り返し、アイシャドーやチークを顔に乗せて行く。
　そして最後にお気に入りのグロスを手に取ったところで、「貸して？」とＫＡＺＵが僕の手からグロスを取り上げた。

　「私が塗ってあげる」
　「あ、でも……」
　「いいからいいから♪　ほら、こっち向いて？」


　唇って案外大事だから、今まで人に任せたことないんだけど……
　でも折角ＫＡＺＵが塗ってくれるって言うし、ちょっぴりドキドキしちゃうけど、お任せしちゃおうかな♪


　僕は言われるまま椅子ごと身体をＫＡＺＵの方に向けると、唇を薄く開きＫＡＺＵを見上げた。