H･I･M･E ーactressー

第５章 日常２：彼

４

　「えっ……と、今、何て言った……の？」

　僕は床に散らばったＤＶＤを拾うことも出来ず、思いっきり顔を引き攣らせたまま、桜木君を見つめた。

　そんな僕を横目に、桜木君はカウンターから飛び出し、僕の足元のＤＶＤを掻き集めてから、カウンターの上に積むと、僕の目の前で手をヒラヒラとさせた。
　「起きてる？」なんて言いながら。


　いや、起きてるよ？
　起きてるってゆーか、寧ろ目が覚めちゃってゆーか……

　だってまさか……じゃん？


　「えっと……、誰の何が入って来る……って？」
　「だからさ、ＨＩＭＥちゃんだよ。ＨＩＭＥちゃんのこれまでの出演作品が、ほぼ全タイトル入って来るらしいんだよ」


　ほ、ほぼ全タイトルって、えっと……
　確か僕がこれまで出たのって、オムニバスも含めると、えっと……


　僕は心の中で指を折って数えてみるけと、途中で断念した。だってそんなの僕自身も把握してないんだもん。


　「しかもさ、話題作のコーナーに置かれるらしくてさ、俺超楽しみでさ♪」
　「へ、へ、へ、へぇ……、そ、そ、そ、そう……なんだ？」


　僕の……いやＨＩＭＥのなのか……？（そんなことこの際どっちだって良い！）

　そりゃね、売れてることは長井さんからも、それから事務所の社長さんからも聞かされてはいたよ？

　でもそれは所謂《そっちの世界》だけの話しで、こんな一般大衆（←言い方古っ！）が訪れるような、チェーン展開しているレンタルビデオ店に置かれるなんて……
　それも堂々とパッケージ平置き（勿論、ＡＶコーナーに、なんだけど）で、なんて……僕、聞いてないよ？


　「そ、それで桜木君はさ、当然……？」
　「当たり前じゃん、借りるに決まってるでしょ」


　だよね、そうだよね……？
　僕知ってるもん、桜木君が僕のデビュー作でもある『ＨＩＭＥ、降臨♡』をレンタルしてること。
　それも一度や二度じゃなく、何度も。


　僕の出演作、それもデビュー作を何回もレンタルしてくれるのは、単純に嬉しいよ？

　嬉しいけどさ、何だかとっても複雑なんだよな……