H･I･M･E ーactressー

第２章 ｓｃｅｎｅ１：教室

２

　「へぇ～、君がＨＩＭＥちゃんか……」

　相原さんが、爪先から頭の天辺まで、じっくり舐め回すように僕を見る。
　でも、とっても不思議なことなんだけど、全然……ってわけではないんだけど、その視線がイヤらしく感じないの。
　だって今まで現場で会って来た相手役の男優さんは、全員が全員ってわけでもないけど、凄く血走った目をしていた。でも相葉さんはきっとあの人達とは違う。


　確信なんてないんだけどね。


　「ふ～ん……」

　不意に伸びて来た手が、僕の頬に触れる。


　あ、暖かい。
　この業界にいて、こんなにも暖かい手を持った人に会ったの、もしかしたら初めてかも。


　「あ、あの……」
　「噂には聞いてたし、何本か出演作品見させて貰ったけど、実物の方がうんと可愛いじゃん」
　「え、そ、そんなことないですよぉ……」


　だってＨＩＭＥの素顔は、どこにでもいる野暮ったい《男の子》なんだから。


　「とりあえずさ、今日はよろしくね？」
　「こちらこそよろしくお願いします」
　
　二人で同時に頭を下げ合い、同じタイミングで上げた顔を見合わせ、お互いに笑い合う。
　普通にしてると、爽やかなイケメンって感じだけど、笑うと急に幼く見えちゃうの、凄く素敵かも。


　あ、そっか、似てるんだ。
　どこが……ってわけじゃないけど、例えるなら《空気感》みたいな？

　なんか僕と同じものを感じる。


　「そう言えばさ、台詞って全部入ってる？」
　「台詞……ですか？　ま、まあ……」

　一応パラパラっとは目を通したけど、相原さんは……どうか分かんないけど、僕に至っては台詞らしい台詞なんて、殆どなかったけど……

　「じゃあさ、ちょっと付き合ってくれない？」
　「いいですけど……」
　「良かった。俺さ、どうも一人で覚えるのが苦手でさ」

　自嘲するように言って、相原さんがサラサラの前髪をクシャッと掻き混ぜる。
　一見おどけて見せてるようにも見えるけど、その目はとても真剣で……


　こんなマイナー中のマイナー作品なのに、台詞が……とか、真剣になっちゃって…、面白い人。
　でも相原さんみたいな人、僕嫌いじゃないかも♪


　僕達は教室の一番端っこの席に向かい合わせに座ると、落書きだらけの机に台本を広げ、台詞合わせを始めた。


　…って言っても、僕の台詞なんて、あって無いようなもんなんだけどね？