視・束ーGaze to chaseー

誠奈

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 不思議なことに、その日……和人のアパートに泊まった日を境に、あのねっとりと纒わり付くように感じていた視線を、パタリと感じなくなった。

 勿論、痴漢に合うことも。

 だからかな、ストーカーだかなんだか知らないけど、やっと諦めたんだ、これで漸くあの視線から解放されるんだって、安心してたんだ。

 もう不安に震えることも、得体の知れない存在に怯えることもないんだ、って。

 でもそれは大きな間違いだった。

 〝アイツ〟は再び俺の前に現れた。

 それも、今度は俺の目にもハッキリと分かる形で……





 その日は朝からおかしなことばかりが続いた。

 目が覚めた瞬間から、誰もいない筈の部屋に人の視線を感じたり、閉めたと思っていた筈の玄関の鍵が開いていたり……

 それだけじゃない、ダイニングチェアの背凭れに引っ掛けてあったコートは、しっかりハンガーに掛けられ、クローゼットの中に仕舞われていた。


 まさか俺の部屋に誰かが?


 不安を感じた俺は、すぐさま和人に電話をかけ、バイト先にも、体調不良を理由に休みの電話を入れた。


 一日休めば、翌月の生活に響くことを分かっていながら……


 俺は和人が来るまでの間、部屋の隅っこに座り、膝を抱えた。

 一人でいることが、兎に角怖かった。


 どれくらいの間そうしていたんだろう……


 気付いた時には、カーテン越しにも分かるくらい、窓からは夕日が差し込んで来ていて……、でも部屋の照明を点ける気には、とてもなれなくて……

 俺は徐々に暗くなって行く部屋の中で、身動ぐことすら出来ずに、ただ息を殺していた。

 結局和人は来なかった。
 今日は仕事も休みの筈なのに……

 もしかしたら急な仕事が入ったのかも、って思ったりもした。

 実際、これまでも何度か同じようなことがあったから。

 ただ、そういう時は大抵連絡をくれたし、「行く」って言ったにも関わらず来なかった……なんてことは、俺が覚えてる限り一度だってない。

 だったらいっそのこと俺の方から和人の部屋へ、そうも考えた。

 この部屋にはいたくなかったから。

 でもそうしなかったのは、俄に募り始めた和人への不信感からだった。

 いや、和人だけじゃない、潤一だって、それから雅也だって……、冷静に考えて見ればおかしなことばかりだ。

 俺が地下鉄で痴漢に遭った日も、それから今日も……、雅也は突然シフトの変更を申し出て来た。

 潤一にしたって、あのコンビニに立ち寄ったのは「たまたまだ」なんて言ってたけど、本当に偶然だったんだろうか?


 もし……もしも、潤一があの痴漢だとしたら……
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