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続く沈黙……
和人が俺を抱くのを躊躇っているのは分かった。
いつもなら俺の意思なんてろ完全に無視して抱くのに、今日に限って躊躇するのには理由がある。
アパートの壁だ。
俺の部屋に比べて、和人の部屋は築年数も古いから、当然壁だって薄い。
もし、珍しく俺が「抱いて」と強請った場所が違ったら、もし俺の部屋だったら……、和人が躊躇うことなんてなかったのかもしれない。
「ごめん、嫌なら別に……」
ただセックスをしたいだけの相手なら他にもいないわけじゃない。
俺は開けることなく放置されていた缶ビールを押し返すと、ノロノロと重い腰を持ち上げた。
「俺、帰るわ……」
「待てって」
和人が俺の手首を掴む。
「でも……」
俺よりもうんと握力の弱い和人の手なんて、振り解こうと思えば簡単に出来るけど、あえてそうしないのは、まだ心のどこかで期待しているからだ。
和人は俺を拒まない、って。
「分かったよ。抱いてやる。けど声は極力出すなよ?」
「それでも良い。だから滅茶苦茶に抱いてくれよ……」
正直言えば、和人に……いや、相手は潤一だって雅也だって構わない。
どこのどいつかは知らないが、俺をコソコソ付け回すアイツのことも、それからアイツに触れられたことも、全部忘れさせてくれるなら誰でも……
俺は引き寄せられるまま、和人の胸に飛び込んだ。
体格なんて、双子かと思うくらい似ている筈なのに、何故だか和人の胸がやたらと大きく思えて……
ヨレヨレのニノのトレーナーを掴むと、キスを強請るように顔を上向けた。
和人はそれに応えるように、俺の唇に軽く自分の唇を押し付けると、ゆっくりと……物音を立てないように、俺を万年床の上に押し倒した。
「しつこいようだけど、あんま声出すなよ?」
しつこいな、分かってるよ。
俺は両手でしっかり口を塞ぐと、和人にされるがまま、身を投げ出した。
我慢出来ると思ったんだ、声なんて。
でも現実はそうもいかなくて……
「んっ、あっ……、あ……ん……」
和人が乱暴に腰を打ち付ける度、どれだけ強く口を塞いだところで、我慢しきれない声が指の隙間から零れてしまう。
「……ったく、我慢しろって言ったでしょ?」
溜息交じりに言って、俺の手を口から引き剥がすと、その代わりと言わんばかりに、和人が自分の唇を押し当ててきた。
「ふ、ぁ……、んくっ……」
和人の唇が、俺の堪えきれずに零れた声を、一つ残らず飲み込んでいく。
そうして訪れた、最も全身が歓喜に震える瞬間。
俺は和人の背中に爪を立て、下腹部に溜まっていたモノを吐き出した。
和人が俺を抱くのを躊躇っているのは分かった。
いつもなら俺の意思なんてろ完全に無視して抱くのに、今日に限って躊躇するのには理由がある。
アパートの壁だ。
俺の部屋に比べて、和人の部屋は築年数も古いから、当然壁だって薄い。
もし、珍しく俺が「抱いて」と強請った場所が違ったら、もし俺の部屋だったら……、和人が躊躇うことなんてなかったのかもしれない。
「ごめん、嫌なら別に……」
ただセックスをしたいだけの相手なら他にもいないわけじゃない。
俺は開けることなく放置されていた缶ビールを押し返すと、ノロノロと重い腰を持ち上げた。
「俺、帰るわ……」
「待てって」
和人が俺の手首を掴む。
「でも……」
俺よりもうんと握力の弱い和人の手なんて、振り解こうと思えば簡単に出来るけど、あえてそうしないのは、まだ心のどこかで期待しているからだ。
和人は俺を拒まない、って。
「分かったよ。抱いてやる。けど声は極力出すなよ?」
「それでも良い。だから滅茶苦茶に抱いてくれよ……」
正直言えば、和人に……いや、相手は潤一だって雅也だって構わない。
どこのどいつかは知らないが、俺をコソコソ付け回すアイツのことも、それからアイツに触れられたことも、全部忘れさせてくれるなら誰でも……
俺は引き寄せられるまま、和人の胸に飛び込んだ。
体格なんて、双子かと思うくらい似ている筈なのに、何故だか和人の胸がやたらと大きく思えて……
ヨレヨレのニノのトレーナーを掴むと、キスを強請るように顔を上向けた。
和人はそれに応えるように、俺の唇に軽く自分の唇を押し付けると、ゆっくりと……物音を立てないように、俺を万年床の上に押し倒した。
「しつこいようだけど、あんま声出すなよ?」
しつこいな、分かってるよ。
俺は両手でしっかり口を塞ぐと、和人にされるがまま、身を投げ出した。
我慢出来ると思ったんだ、声なんて。
でも現実はそうもいかなくて……
「んっ、あっ……、あ……ん……」
和人が乱暴に腰を打ち付ける度、どれだけ強く口を塞いだところで、我慢しきれない声が指の隙間から零れてしまう。
「……ったく、我慢しろって言ったでしょ?」
溜息交じりに言って、俺の手を口から引き剥がすと、その代わりと言わんばかりに、和人が自分の唇を押し当ててきた。
「ふ、ぁ……、んくっ……」
和人の唇が、俺の堪えきれずに零れた声を、一つ残らず飲み込んでいく。
そうして訪れた、最も全身が歓喜に震える瞬間。
俺は和人の背中に爪を立て、下腹部に溜まっていたモノを吐き出した。
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