独占欲

誠奈

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「智樹様、私に案があります」

 しゃくり上げるように泣く僕の背中を摩りながら、松下が呟くように言う。

「案……って?」

 僕はゆっくりと顔を上げ、涙に濡れた目で松下を見上げた。

「翔真様に、智樹様のお薬を飲ませるのです」


 僕のお薬を……?
 でもあれは……

「駄目、そんなことをしたら兄様は……」


 生まれつき心臓の弱い兄様が、あのお薬を飲んだら……


「兄様が死んでしまうかもしれない。駄目、絶対に駄目!」

 松下の胸に顔を埋めたまま、首を振る僕の髪を、松下の大きな手が撫でる。

「大丈夫……、安心なさいませ。一時いっときのことです。翔真様の身にもしものことがあったとしても、一時いっとき経てば……」

 それでも首を振り続ける僕の頬を、松下の大きな手が包み込み、上向かせた。

「智樹様は翔真様のお心を取り戻したくはないんですか?」



 兄様の心を取り戻す……?

 そんなことが出来るの?
 この僕に……?


「出来る訳ない。だって兄様の心はもう……」


 和人君に向けられていて、もう僕に向けられることなんて……ないんだもの。


「出来ますよ智樹様、あなたになら。私の言う通りにすれば」


 松下の言う通りにすれば、兄様はまた……


「また僕を愛してくれるの……?」


 以前のように……、和人君がこの屋敷に来る前みたいに、兄様は僕を……?


「ええ、勿論です。智樹様は愛されたくはないんですか? 心も身体も……全部を……」


 愛されたい……
 兄様に……兄様に愛してもらいたい!


 僕は松下に頷いて見せた。
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