愛玩人形

誠奈

文字の大きさ
上 下
163 / 227
第12章   追葬…

12

しおりを挟む
「日が暮れる前に墓参を済ませてしまおうか」

 僕は胸の中に芽生えた感情を押し鎮めるように、智子の手を強く握った。

「そうね、きっと母さまも待ってらっしゃるわ」

 智子が僕を見上げ、柔らかな微笑みを浮かべる。
 その顔は、父様もここに眠っていることすら忘れてしまっているような、とても晴れやかな笑顔だった。

 なのに僕は、どうしてだか智子の顔を真っ直ぐ見ることが出来ず、智子の手を引くと、足早に境内を抜け、本堂の裏手にある墓地へと急いだ。

 幼い頃の記憶を辿りながら、僕は桜木家の墓標を目指す。

 幾つもの墓石の間を抜け、やがて見えてきた一際大きな墓石の前に立った瞬間、僕の背中がぶるりと震えた。

「智翔、おばあさまにご挨拶なさい?」

 智子が智翔の背中を押す。
 智翔は墓石の前で膝を折り、恐らく道端で咲いていた花だろう、小さな野菊を墓前に手向けると、小さな両手を合わせた。

 僕達もそれに習って手を合わせる。


 とは言っても、僕には合わせる手などないのだけれど……


 一頻り黙祷を捧げた後、ふと隣の智子に視線を向けると、閉じた瞼の端から、一粒の涙が零れ落ちた。


 智子は一体何を思っているのだろう……
 智翔の顔を見ることなく旅立った母様のことだろうか……

 それとも、無垢な智子の心を、その穢らしい手で穢した父様のことだろうか……

 だとしたら僕は……

 いや、考えるのはよそう……


「さあ、そろそろ行こうか……」
「えーっ、もう? 智翔疲れちゃった……」

 あれだけ元気に駆け回っていた智翔が、珍しく我儘を言って、僕の左腕に両手を絡めた。

 その瞬間、心臓がまるで早鐘のように鼓動し、耳の奥で警鐘が鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

謀略で婚約破棄された妹が、借金返済のために腐れ外道子爵公子を婿に迎えなければいけない?兄として見過ごせるか!

克全
ファンタジー
ガルシア男爵家は家臣領民を助ける為に大きな借金をしていた。国を滅亡させかねないほどの疫病が2度も大流行してしまい、その治療薬や回復薬を買うための財産を全て投げだしただけでなく、親戚や友人知人から借金までしたのだ。だが、その善良さが極悪非道な商人がありのゴンザレス子爵家に付け入るスキを与えてしまった。最初に金に権力によって親戚友人知人に借りていた金を全て肩代わりされてしまった。執拗な取り立てが始まり、可憐な男爵令嬢マリアが借金を理由にロドリゲス伯爵家のフェリペから婚約破棄されてしまう。それだけではなく、フェリペに新しい婚約者はゴンザレス子爵家の長女ヴァレリアとなった。さらに借金の棒引きを条件に、ガルシア家の長男ディランを追放して可憐な美貌の妹マリアに三男を婿入りさせて、男爵家を乗っ取ろうとまでしたのだ。何とか1年の猶予を手に入れたディランは、冒険者となって借金の返済を目指すと同時に、ゴンザレス子爵家とロドリゲス伯爵家への復讐を誓うのであった。

23時のプール 2

貴船きよの
BL
あらすじ 『23時のプール』の続編。 高級マンションの最上階にあるプールでの、恋人同士になった市守和哉と蓮見涼介の甘い時間。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

淫らな粒は次々と押し込まれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...