135 / 227
第11章 信愛…
6
しおりを挟む
名もないような花を、智子は両手いっぱいに摘んだ。
その半分をブラウスの襟元を飾っていた細いリボンで束ね、花束を作った。
「その残った花はどうするんだい?」
ふと智子がネッカチーフに包んだ花が気になる。
「ふふ、お花の冠を作って赤ちゃんへの贈り物にするのよ?」
「花の冠って、まだ男か女かも分からないのに……」
「あら、智子には分かるもの。きっと兄さまに似た、可愛らしい女の子よ」
「僕に……?」
そうよ、と無邪気に笑って腹を摩る智子は、期待に目を輝かせていた。
さっきまであんなに不安そうにしていたのに……
「きっと期待と不安がないまぜになっているんだろうな……。親になるとは、そういうものなんじゃないか? 俺には分からんが」
言われてみれば、僕もそうなのかもしれない。
僕だって、父親になることに、不安がないわけじゃないし、期待だってしている。
でもやっぱり今は……不安の方が勝っているんだろうな……。
「さあ、そろそろ行こうか? この分だと家に着いた頃には日が暮れてしまう」
一足先に馬車に乗り込んだ潤一が、地べたに座り込んで花を摘み続ける僕達を呼んだ。
「それは大変だ。さあ、行こうか?」
僕は智子の手を引くと、腰を支えて馬車に乗り込んだ。
智子の手には、色とりどりの花で作られた花束が、しっかりと抱えられている。
「喜んで貰えると良いね?」
僕が言うと、智子がこくりと頷く。
「智子が心を込めて作ったんだ。きっと……」
「そうね、おばさまもおじさまも、きっと喜んでくださるわね?」
愛おしそうに花に顔を埋める智子が、僕は愛おしくて……
僕は潤一が見ている前だということも忘れて、その頬に口付けた。
その半分をブラウスの襟元を飾っていた細いリボンで束ね、花束を作った。
「その残った花はどうするんだい?」
ふと智子がネッカチーフに包んだ花が気になる。
「ふふ、お花の冠を作って赤ちゃんへの贈り物にするのよ?」
「花の冠って、まだ男か女かも分からないのに……」
「あら、智子には分かるもの。きっと兄さまに似た、可愛らしい女の子よ」
「僕に……?」
そうよ、と無邪気に笑って腹を摩る智子は、期待に目を輝かせていた。
さっきまであんなに不安そうにしていたのに……
「きっと期待と不安がないまぜになっているんだろうな……。親になるとは、そういうものなんじゃないか? 俺には分からんが」
言われてみれば、僕もそうなのかもしれない。
僕だって、父親になることに、不安がないわけじゃないし、期待だってしている。
でもやっぱり今は……不安の方が勝っているんだろうな……。
「さあ、そろそろ行こうか? この分だと家に着いた頃には日が暮れてしまう」
一足先に馬車に乗り込んだ潤一が、地べたに座り込んで花を摘み続ける僕達を呼んだ。
「それは大変だ。さあ、行こうか?」
僕は智子の手を引くと、腰を支えて馬車に乗り込んだ。
智子の手には、色とりどりの花で作られた花束が、しっかりと抱えられている。
「喜んで貰えると良いね?」
僕が言うと、智子がこくりと頷く。
「智子が心を込めて作ったんだ。きっと……」
「そうね、おばさまもおじさまも、きっと喜んでくださるわね?」
愛おしそうに花に顔を埋める智子が、僕は愛おしくて……
僕は潤一が見ている前だということも忘れて、その頬に口付けた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
謀略で婚約破棄された妹が、借金返済のために腐れ外道子爵公子を婿に迎えなければいけない?兄として見過ごせるか!
克全
ファンタジー
ガルシア男爵家は家臣領民を助ける為に大きな借金をしていた。国を滅亡させかねないほどの疫病が2度も大流行してしまい、その治療薬や回復薬を買うための財産を全て投げだしただけでなく、親戚や友人知人から借金までしたのだ。だが、その善良さが極悪非道な商人がありのゴンザレス子爵家に付け入るスキを与えてしまった。最初に金に権力によって親戚友人知人に借りていた金を全て肩代わりされてしまった。執拗な取り立てが始まり、可憐な男爵令嬢マリアが借金を理由にロドリゲス伯爵家のフェリペから婚約破棄されてしまう。それだけではなく、フェリペに新しい婚約者はゴンザレス子爵家の長女ヴァレリアとなった。さらに借金の棒引きを条件に、ガルシア家の長男ディランを追放して可憐な美貌の妹マリアに三男を婿入りさせて、男爵家を乗っ取ろうとまでしたのだ。何とか1年の猶予を手に入れたディランは、冒険者となって借金の返済を目指すと同時に、ゴンザレス子爵家とロドリゲス伯爵家への復讐を誓うのであった。
【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
吸血鬼を倒すハンターである青年は、美しい吸血鬼に魅せられ囚われる。
若きハンターは、己のルーツを求めて『吸血鬼の純血種』を探していた。たどり着いた古城で、美しい黒髪の青年と出会う。彼は自らを純血の吸血鬼王だと名乗るが……。
対峙するはずの吸血鬼に魅せられたハンターは、吸血鬼王に血と愛を捧げた。
ハンター×吸血鬼、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血描写・吸血表現あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全89話+外伝3話、2019/11/29完
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる