愛玩人形

誠奈

文字の大きさ
上 下
128 / 227
第10章   傀儡…

16

しおりを挟む
「何をしているの、早くこの子をどこかへやって頂戴」

 掴んだ母様の着物の裾を離すまいと、必死に縋る智子の手をぴしゃりと叩くと、母様は渾身の力を込めて父様を抱き起こし、壁に凭せ掛けた。
 そしてその横にぴたりと寄り添い、力を失くした手に自分の指を絡め、物言わぬ唇にそっと口付けた。

「あなたは私の物……」

 小さく呟き、そっと瞼を閉じた。
 僕は泣き崩れる智子に駆け寄り、その震える小さな身体を抱え込み、露台まで飛び出た。

「いやっ……、離してっ……! 母さまが……、兄さま、母さまが……っ……!」
「智子っ……!」

 僕は智子の涙で濡れた頬を両手で挟み込むと、赤い果実のような唇に口付けを一つした。

「智子はさっき言ったよね? 母様みたいなお母さんになる、と。ならば智子も母様のように、命懸けでお腹の子を守らないと……。分かるかい?」
「でも……でも……」
「大丈夫、智子は僕が守る。だから……お願いだ……」


 母様の想いをどうか無にしないでおくれ。


 しゃくり上げる背中を摩り、露台の下を見下ろすと、轟々と燃え盛る炎から、命からがら逃げ惑う使用人達の中に潤一の姿を見つけた。


 無事だったんだ……


「潤一先生!」

 僕が叫ぶと、潤一先生が一瞬辺りに視線を巡らせ、そして露台の上の僕達に目を止めた。

「先生、智子をお願いします!」
「分かった」

 僕の意図を察したのか、潤一が露台の真下で両手を広げた。

「いいかい、智子。ここか飛び降りるんだ。出来るかい?」
「怖いわ……」
「大丈夫、潤一先生が必ず受け止めてくれる。潤一先生を信じるんだ」

 僕は智子を抱き上げ、手摺りの上に載せると、僕を振り返ってはいやいやをするように首を振ると智子の髪を撫で、

「僕もすぐ行くから、下で待っておいで?」

 耳元で囁くと、小さな背中を押した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...