愛玩人形

第９章 惑乱…

10

　「そうか。理由は……あえて聞かないが、君が言うならそうなんだろう。それならば……」

　そう言って潤一は胸の前では両腕を組むと、小さく息を吐き出してから、僕を真剣な眼差しで見つめた。

　「俺に考えがあるんだが……。勿論、君さえ良ければの話なんだがね？」と、前置きをしてから、一度は組んだ腕を解いた。

　「俺と智子さんの婚礼の日取りが決まったことは、君も知っているね？」
　「え、ええ、まあ……」

　その話を照から聞かされた時に僕が受けた衝撃たるや、とても言葉では言い表すことが出来ない程で、暫くはまともに息をすることすら出来なかった程だ。
　
　「では婚礼の場所については？」
　「いえ、そこまでは……。でも屋敷でするんでは？」

　父様のことだ、智子を屋敷の外に出すなんてこと考えられない。

　「それが違うんだよ。どうやら、義父上は懇意にされてるホテルの広間を手配されているようでね……」
　「そう……なんですか？　それはどこの……」
　君も名前くらいは知っているだろうが、正田……とか言ったかな」

　正田……その名前には聞き覚えがあった。

　正田の叔父様とは、僕が小さい頃に会ったきりだが、正田家の長男真斗とは学生時代の先輩後輩に当たる間柄だ。
　父様のみならず、僕と真斗も旧知の仲、と言っても過言ではない関係だ。