100 / 227
第9章 惑乱…
4
しおりを挟む
俯いてしまった僕の胸倉を、不意に伸びて来た潤一の手が掴んだ。
殴られる!
僕は一瞬身を固くして構えた。
でも翌々考えてみれば、僕にも責任の一端はある。
いや、一端どころか、こうなったは僕のせいだ。
僕は殴られたって当然のことをしでかしたんだ。
「殴ってくれ。気の済むまで僕を……」
僕を殴ったところで、潤一の気が収まるとは思えない。
でも今の僕が、智子の許嫁である潤一に対して出来るのは大人しく殴られてやることくらいしかない。
僕は瞼を固く閉じた。
ところが潤一はゆっくりと手を解くと、僕の額を拳骨で軽く叩き、小さく笑った。
「本当はね、殴ってやりたいよ。でも俺にも自尊心ってのがあってね…。これ以上惨めにはなりたくないんだよ」
「先……生……」
大人なんだ。
僕なんかが足元にも及ばないくらい、潤一は全てに関して大人なんだ。
「そんなことよりも、今はこの先のことを考えなくては……」
胸の前で腕を組み唸りながら、潤一が何度も首を捻る。
僕はといえば、何の案も見い出せないままに、ただただその光景を眺めていた。
きっと深く傷付いているだろうに、僕達のために……
自然と申し訳なさが込み上げてくる。
「あの、どうして僕のために? 智子を愛しているんでしょ? だったら……」
事実を伏せて、このまま父様の言いつけ通り智子と結婚することだって出来た筈なのに、どうして……
「ああ、愛しているよ。だからこそ、彼女を守ってやりたくてね。彼女と……」
そこまで言って、潤一が途端に言い淀む。
そして大きく息を吸い込み、それを一気に吐き出した。
「彼女と、彼女のお腹の子をね……」
そう言った潤一の目には、何か強い覚悟のような物が見て取れた。
殴られる!
僕は一瞬身を固くして構えた。
でも翌々考えてみれば、僕にも責任の一端はある。
いや、一端どころか、こうなったは僕のせいだ。
僕は殴られたって当然のことをしでかしたんだ。
「殴ってくれ。気の済むまで僕を……」
僕を殴ったところで、潤一の気が収まるとは思えない。
でも今の僕が、智子の許嫁である潤一に対して出来るのは大人しく殴られてやることくらいしかない。
僕は瞼を固く閉じた。
ところが潤一はゆっくりと手を解くと、僕の額を拳骨で軽く叩き、小さく笑った。
「本当はね、殴ってやりたいよ。でも俺にも自尊心ってのがあってね…。これ以上惨めにはなりたくないんだよ」
「先……生……」
大人なんだ。
僕なんかが足元にも及ばないくらい、潤一は全てに関して大人なんだ。
「そんなことよりも、今はこの先のことを考えなくては……」
胸の前で腕を組み唸りながら、潤一が何度も首を捻る。
僕はといえば、何の案も見い出せないままに、ただただその光景を眺めていた。
きっと深く傷付いているだろうに、僕達のために……
自然と申し訳なさが込み上げてくる。
「あの、どうして僕のために? 智子を愛しているんでしょ? だったら……」
事実を伏せて、このまま父様の言いつけ通り智子と結婚することだって出来た筈なのに、どうして……
「ああ、愛しているよ。だからこそ、彼女を守ってやりたくてね。彼女と……」
そこまで言って、潤一が途端に言い淀む。
そして大きく息を吸い込み、それを一気に吐き出した。
「彼女と、彼女のお腹の子をね……」
そう言った潤一の目には、何か強い覚悟のような物が見て取れた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる