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第6章 宿望…
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「着替えてきます」
それでも智子の様子が気になって仕方の無い僕は、母様の突き刺すような視線を背中一面に感じながら、も、再び階段を登り始めた。
階下では、母様と潤一が何やら話をしていたが、気にすることなく一息に階段を駆け上がった僕は、自室の扉を開いた。
締め切ってあったカーテンを開け光を取り込むと、幾月も主が留守だったとは思えない程、塵一つなく掃除も行き届いているし、空気の澱みすらもない。恐らくは照のおかげだろう。
「後で礼を言わないと……」
僕は持っていた荷物を絨毯を敷き詰めた床に置くと、いつの間にか綻びの出来た別珍の上着を脱ぎ、寝台の上に無造作に置いた……が、思い直して椅子の背凭れにかけ直した。その時、部屋の扉が数回……軽く叩かれた。
智子かもしれない。
僕の帰りを聞き付けて、智子が僕の元へ……
僕は逸る気持ちを抑えながら、取手に手をかけると扉をゆっくりと開いた。
でもそこに立っていたのは、僕が想い焦がれていた智子ではなく、潤一だった。
「なんだ、貴方でしたか……」
「おやおや、これは失敬だな。ちょっと良いかな」
落胆の色を隠せない僕を他所に、潤一はずかずかと僕の部屋へ入り込み、勉強机の椅子に図々しくも腰を下ろした。
入室の許可などしていないのに……
僕は洋服箪笥から羽織を取り出すと、それを肩にかけ寝台の端に腰を下ろした。
「用はなんです?」
話すことなど何もないけど……
僕はわざとらしく溜息を一つついてみせた。
それでも智子の様子が気になって仕方の無い僕は、母様の突き刺すような視線を背中一面に感じながら、も、再び階段を登り始めた。
階下では、母様と潤一が何やら話をしていたが、気にすることなく一息に階段を駆け上がった僕は、自室の扉を開いた。
締め切ってあったカーテンを開け光を取り込むと、幾月も主が留守だったとは思えない程、塵一つなく掃除も行き届いているし、空気の澱みすらもない。恐らくは照のおかげだろう。
「後で礼を言わないと……」
僕は持っていた荷物を絨毯を敷き詰めた床に置くと、いつの間にか綻びの出来た別珍の上着を脱ぎ、寝台の上に無造作に置いた……が、思い直して椅子の背凭れにかけ直した。その時、部屋の扉が数回……軽く叩かれた。
智子かもしれない。
僕の帰りを聞き付けて、智子が僕の元へ……
僕は逸る気持ちを抑えながら、取手に手をかけると扉をゆっくりと開いた。
でもそこに立っていたのは、僕が想い焦がれていた智子ではなく、潤一だった。
「なんだ、貴方でしたか……」
「おやおや、これは失敬だな。ちょっと良いかな」
落胆の色を隠せない僕を他所に、潤一はずかずかと僕の部屋へ入り込み、勉強机の椅子に図々しくも腰を下ろした。
入室の許可などしていないのに……
僕は洋服箪笥から羽織を取り出すと、それを肩にかけ寝台の端に腰を下ろした。
「用はなんです?」
話すことなど何もないけど……
僕はわざとらしく溜息を一つついてみせた。
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