愛玩人形

第５章 妬心…

７

　両家の堅苦しい形式ばった挨拶も済み、簡単な宴席も終えると、潤一が徐ろに腰を上げ、智子に向かって右手を差し出した。

　「智子さん、少し散歩でも如何ですか？」
　「えっ……？」

　潤一の誘いに、智子がそれまでずっと俯いたままだった顔を驚いたように上げた。その時一瞬、繋いだままの指先から、智子が酷く困惑しているのが伝わって来た。

　「でも、智子……」

　智子の潤んだ目が、縋るように僕に向けられる。でも僕にはどうして上げることも出来ず、ただただ握った手に力を込めることしか出来なかった。

　「それが良い。智子、潤一君と庭でも散策してくるといい｣

　父様のいつになく高揚した声が潤一の背中を後押しするように響き、それ以上は逆らえないと観念したのか、智子がの指が僕の手からゆっくりと離れて行くと、もう一度差し出された潤一の手にそっと重ねられた。


　つい今しがたまで、あの小さな手は僕のこの手の中にあったのに……


　智子の手を握ったまま、座卓を回り込んで来た潤一が、西洋の騎士さながらに智子の隣で片膝を着く。


　僕の存在などまるで視界に入っていないかのように……


　「さ、行きましょう」
　「……はい」

　小さく答えて、智子が長い髪を揺らして立ち上がる細い腰に、潤一のしなやかに伸びた手が添えられた。


　なんて気障きざな奴なんだ……


　瞬間、僕の胸が焼けるように熱くなって、怒りとも憎しみとも分からない感情が、どす黒い渦を巻きながら湧き上がった。