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第3章 傷跡…
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「お休みなさい、兄さま」
突然頬に触れた柔らかな感触に我に返ると、そこはもう智子の部屋の前で……
「あ、ああ、うん、お休み」
咄嗟に返した言葉は、情けないことに震えていた。
「ぼんやりしたりして、おかしな兄さまね」
智子がクスクスと笑いながら、硝子玉のような目で僕を見上げる。
「ちょっと考え事をしていたからね。さ、もう部屋にお入り? でないとまた母様に叱られる」
抱き締めたくなる衝動を、智子の綿毛のように柔らかな栗色の巻き毛を撫でることで、僕は必死で堪えた。なのに、そんな僕の気も知らない智子は、未だその痕跡を色濃く残す頬を指差す。
「兄さまは?」
「え……?」
「兄さまはして下さらないの?」
「何……をだい?」
「お休みのキッス、兄さまは下さらないの?」
その瞬間、僕の胸に矢が突き刺さったような、或いは銃で撃ち抜かれたような、鋭くも鈍いい痛みが走った。
触れたい。
でも、僕の罪の証であるこの傷に、口づけをするなんて、きっと神様がお許しになる筈がない。
僕はすっと息を吸い込むと、腕に絡む智子の腕をそっと解いた。
「だ、だめだよ…。智子はお嫁に行くんでしょ? だったら無闇に他の男にキッスをせがんだりしてはいけないよ……」
そうだ、潤一からの返事がまだとは言え、智子に結婚の話が持ち上がった以上、智子はもう僕だけの智子ではないんだ。いつまでも僕の腕の中に抱きとめておくことは出来ないんだ。
「あら、でも父様も言ってらしたでしょ、智子はすぐに結婚するわけじゃないわ? まだ随分先よ? それに智子……」
何かを言いかけて、智子が長い睫毛に縁取られた瞼を閉じ、俯いた。
突然頬に触れた柔らかな感触に我に返ると、そこはもう智子の部屋の前で……
「あ、ああ、うん、お休み」
咄嗟に返した言葉は、情けないことに震えていた。
「ぼんやりしたりして、おかしな兄さまね」
智子がクスクスと笑いながら、硝子玉のような目で僕を見上げる。
「ちょっと考え事をしていたからね。さ、もう部屋にお入り? でないとまた母様に叱られる」
抱き締めたくなる衝動を、智子の綿毛のように柔らかな栗色の巻き毛を撫でることで、僕は必死で堪えた。なのに、そんな僕の気も知らない智子は、未だその痕跡を色濃く残す頬を指差す。
「兄さまは?」
「え……?」
「兄さまはして下さらないの?」
「何……をだい?」
「お休みのキッス、兄さまは下さらないの?」
その瞬間、僕の胸に矢が突き刺さったような、或いは銃で撃ち抜かれたような、鋭くも鈍いい痛みが走った。
触れたい。
でも、僕の罪の証であるこの傷に、口づけをするなんて、きっと神様がお許しになる筈がない。
僕はすっと息を吸い込むと、腕に絡む智子の腕をそっと解いた。
「だ、だめだよ…。智子はお嫁に行くんでしょ? だったら無闇に他の男にキッスをせがんだりしてはいけないよ……」
そうだ、潤一からの返事がまだとは言え、智子に結婚の話が持ち上がった以上、智子はもう僕だけの智子ではないんだ。いつまでも僕の腕の中に抱きとめておくことは出来ないんだ。
「あら、でも父様も言ってらしたでしょ、智子はすぐに結婚するわけじゃないわ? まだ随分先よ? それに智子……」
何かを言いかけて、智子が長い睫毛に縁取られた瞼を閉じ、俯いた。
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