愛玩人形

誠奈

文字の大きさ
上 下
17 / 227
第3章   傷跡…

しおりを挟む
 父様が吸い込んだ煙草の煙を吐き出し、智子に向かって「おいで」と手を差し出した。
 それに応えるように、智子は膝よりも少し長めのスカートの裾をひらりと翻すと、父様の座る一人掛の椅子の肘置きに腰を降ろした。


 智子のいなくなった右側が、少しだけ寂しい……


 「何も今すぐ結婚させるというわけではない」

 それは分かってる。僕達のような、所謂上流階級と呼ばれる世界では、産まれた瞬間から許婚が決まっていることだってざらにある。


 でも、でも……っ!


 「お話は分かりました。で、そのお相手は? まさかこの方じゃありませんよね?」

 母様がハンケチで口元を覆ったまま、冷たい視線を潤一に向けるから、僕もまさかと思いながらも、母様の視線を追うように、潤一の方に顔を向けた。


 そんなことある筈がない。
 父様が智子の許嫁に、潤一のような男を選ぶなんて、絶対にある筈がない。

 お願い、違うと言って、父様……


 でも、そんな僕の願いも虚しく、父様は煙草を灰皿に揉み消すと、智子を膝の上に抱き、それは愛おしそうに智子の小さな手を撫でた。

 「智子は潤一君が嫌いか?」
 「いいえ、智子、潤一先生好きよ」
 「そうかそうか、智子は潤一君を好いておるか。ならば話は早い」

 父様は満足気に顔を綻ばせると、徐に立ち上がり、歳の割には小柄な智子の身体をフワリと抱き上げた。

 「ふふ、父様ったら、智子はもう赤ちゃんではないのよ? だってお嫁さんになるんでしょ?」


 やめてくれ智子、君の口からそんな言葉は聞きたくない。


 無邪気に笑う智子を、僕は見ていられなくて、思わず視線を逸らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...