S/T/R/I/P/P/E/R ー踊り子ー

誠奈

文字の大きさ
上 下
365 / 369
第27章    All for you

21

しおりを挟む
 「分かった……、行って来る……」


 正直、怖い。


 怖くて怖くて……、雅也の腕を振り解き、自動ドアが開くのももどかしく、薬品の匂いにに満ちた建物に駆け込んだ足が縺れた。

 濃い舞台メイクに、コスプレさながらの衣装で、転げるように駆け抜ける俺を、行き過ぎる人達が擦れ違いざまに奇異の目で見たが、俺はそれにも構うことなくエレベーターに乗り込み、翔真の病室がある最上階のボタンを押した。

 一つずつ増えていく数字を見ながら、何度も息を吸い込んでは、それを吐き出した。


 そんなことをしたって、今にも大声を上げて泣き出したい気持ちに変わりはないのに……
 翔真のことを想うと、胸が痛くて、締め付けられるくらい、苦しくて堪らないのに……


 「翔真……」

 不意に熱くなった目頭に、ツンと鼻の奥が痛んだ丁度その時、エレベーターのドアが開き、俺は何かに引き寄せられるように、窓から差し込む夕陽に茜色に染まった廊下へと飛び出した。

 逸る気持ちを押し殺し、佐藤に連れて来られた時の記憶を辿りながら、ネームプレートのかかっていないドアを探し出し、ドアの前で足を止めた。

 このドアの向こうに翔真がいる。


 でもその翔真はもう……


 零れ落ちそうになる涙を衣装の袖で拭い、ゆっくりドアを引く。
 この間来た時には聞こえていた、耳障りな程の機械音が、今は聞こえない。


 あるのは静寂だけで、それが何を意味するのか……


 翔真と俺とを隔てるカーテンを捲らなくたって分かる。



 間に合わなかった……


 俺は全身から力が抜けて行くのを感じながら、そっとカーテンを引いた。

 「翔……真?」

 まるで眠っているような……、死んでるとは思えない程、綺麗で穏やかなな顔でベッドに横たわる翔真の頬に触れてみる。

 「……っだよ…、まだこんなあったけぇのに、死んでるなんて、嘘だよな?」

 ポタポタと落ちた大粒の涙が、まだ微かに体温の残る翔真の頬を濡らして行く。

 「なあ……、目ぇ……開けてくれよ、翔真……、俺、ちゃんと踊ったんだぜ?」


 とても完璧とは言えない出来だったけど、それでも逃げずに踊ったのに、ただお前との約束を守りたい一心で、踊ったのに……


 「翔真、言ってくれよ……」


 良くやった、って……

 「キスしてくれよ……、抱き締めてくれよ……、なあ翔真っ!」


 ただ一言、「おかえり」って言ってくれよ……!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

不良少年達は体育教師を無慈悲に弄ぶ

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...