361 / 369
第27章 All for you
17
しおりを挟む
久しぶりに過ごす二人きりの時間……
俺は表情一つも変えず、一言も言葉を発することのない翔真に向かって、これまで自分の身に起きたことを、記憶に残っている限り、洗いざらい話して聞かせた。
ダルクで出会った、翔真と良く似た名を持つ柊真のことまで全部……
「俺の前で他の男の話しすんじゃねぇ」って、翔真が嫉妬丸出しの口調で俺を睨みつけるのを想像しながら……
「翔真、俺さ、やっぱ無理だよ」
自分自身のために踊るなんてこと、俺には出来ないよ。
だってそうだろ?
俺の心も……身体も、全部が翔真への想いで満ちているのに、その想いを仮にでも捨てて、空っぽのまま踊るなんて、俺には無理だ。
「だからさ、俺、今度のステージも、お前のために踊るよ」
翔真のために……
翔真への想いだけを乗せて……
「それでいいだろ? な、翔真……」
俺はもう一度翔真に口付けると、枕元に置いてあった腕時計を手に取った。
翔真が常に身に着け、愛用していた物だ。
「これ、借りてっていいよな?」
上本に刺された時の物だろうか、所々に血液の痕跡が色濃く残るベルトを手首に巻き付け、その使命を忘れてしまったかのように針を止めた盤面を耳に当てた。
「じゃ……、俺行くな?」
重い腰を上げ、ずっと繋いでいた手を静かに解いた。
また来る……、本当はそう言いたかった。
でも俺は、喉まで出かかったそのたった一言を飲み込んだ。
「俺に会いに来る暇あんなら、その時間をレッスンに当てろ」って、翔真ならきっと言うだろうから……
だから俺は、約束はしない。
いつか……
いつになるか分かんねぇけど、もしかしたら永遠にそんな日が来ないのかもしれないけど、もし翔真が目を覚ましたら、その時はどこにいても、何をしていても飛んで来るから……
それでいいんだよな、翔真。
「そん時まで、コイツは俺が預かっておくから」
サラッと風に靡く髪を撫で、穏やかな顔で眠り続ける翔真に、今出来る一番の笑顔を向け、俺は病室を後にした。
「もういいの? もう少しゆっくりしても……」
廊下で待っていた和人が駆け寄って来て、ふっくらとした手で俺の両手を包んだ。
「いいんだ」
翔真が生きている、それだけでいいんだ。
俺は表情一つも変えず、一言も言葉を発することのない翔真に向かって、これまで自分の身に起きたことを、記憶に残っている限り、洗いざらい話して聞かせた。
ダルクで出会った、翔真と良く似た名を持つ柊真のことまで全部……
「俺の前で他の男の話しすんじゃねぇ」って、翔真が嫉妬丸出しの口調で俺を睨みつけるのを想像しながら……
「翔真、俺さ、やっぱ無理だよ」
自分自身のために踊るなんてこと、俺には出来ないよ。
だってそうだろ?
俺の心も……身体も、全部が翔真への想いで満ちているのに、その想いを仮にでも捨てて、空っぽのまま踊るなんて、俺には無理だ。
「だからさ、俺、今度のステージも、お前のために踊るよ」
翔真のために……
翔真への想いだけを乗せて……
「それでいいだろ? な、翔真……」
俺はもう一度翔真に口付けると、枕元に置いてあった腕時計を手に取った。
翔真が常に身に着け、愛用していた物だ。
「これ、借りてっていいよな?」
上本に刺された時の物だろうか、所々に血液の痕跡が色濃く残るベルトを手首に巻き付け、その使命を忘れてしまったかのように針を止めた盤面を耳に当てた。
「じゃ……、俺行くな?」
重い腰を上げ、ずっと繋いでいた手を静かに解いた。
また来る……、本当はそう言いたかった。
でも俺は、喉まで出かかったそのたった一言を飲み込んだ。
「俺に会いに来る暇あんなら、その時間をレッスンに当てろ」って、翔真ならきっと言うだろうから……
だから俺は、約束はしない。
いつか……
いつになるか分かんねぇけど、もしかしたら永遠にそんな日が来ないのかもしれないけど、もし翔真が目を覚ましたら、その時はどこにいても、何をしていても飛んで来るから……
それでいいんだよな、翔真。
「そん時まで、コイツは俺が預かっておくから」
サラッと風に靡く髪を撫で、穏やかな顔で眠り続ける翔真に、今出来る一番の笑顔を向け、俺は病室を後にした。
「もういいの? もう少しゆっくりしても……」
廊下で待っていた和人が駆け寄って来て、ふっくらとした手で俺の両手を包んだ。
「いいんだ」
翔真が生きている、それだけでいいんだ。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
俺と両想いにならないと出られない部屋
小熊井つん
BL
ごく普通の会社員である山吹修介は、同僚の桜庭琥太郎に密かに恋心を寄せていた。
同性という障壁から自分の気持ちを打ち明けることも出来ず悶々とした日々を送っていたが、ある日を境に不思議な夢を見始める。
それは『〇〇しないと出られない部屋』という形で脱出条件が提示される部屋に桜庭と2人きりで閉じ込められるというものだった。
「この夢は自分の願望が反映されたものに違いない」そう考えた山吹は夢の謎を解き明かすため奮闘する。
陽気お人よし攻め×堅物平凡受けのSF(すこし・ふしぎ)なBL。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる